厚労省の有識者検討会は先月、外国人が働きながら最長5年間、日本で技能を学ぶ「外国人技能実習制度」に、介護分野を加える方針を決めた。この制度、研修、という名目ではあるが、その中身は、日本サイドの労働力不足を補う対策である。
国内の介護現場では、これまでにもインドネシアとフィリピン、ベトナムの3ヵ国とEPA(経済連携協定)を結び、外国人職員を受け入れてきているが、EPA方式では、4年間の“見習い期間”中に日本人と同じ試験を受け、介護福祉士の資格を取得しなければならない。そんな高いハードルの存在から、見習いのまま夢破れ、帰国する人も少なくない。
こうして人材補填策としてはほとんど効果のないEPA方式の代案として決まったのが、今回の「技能実習制度」拡大である。今週の週刊朝日と文春に、関連記事が載った。
『使い捨てにされる外国人に介護される日』と題した週朝のルポでは、インドネシア人やフィリピン人の介護福祉士が在籍する老人ホームを訪ね、奮闘する彼女らの姿を描き出す一方、「技能実習制度」の適用を批判するジャーナリスト安田浩一氏の見解を紹介している。それによれば、縫製工場などで外国人を“学ばせる”実習制度の実態は、ピンハネの横行する低賃金労働、「現代版の女工哀史」にほかならず、トラブルが続出しているという。
文春の『介護報酬引き下げで外国人スタッフ頼み 高齢者施設「修羅場」ルポ』は、実習生の話でなく、政府による介護報酬の引き下げにまつわる現場ルポで、過酷な労働条件が人手不足に拍車をかけ、そのしわ寄せが入所者への劣悪な対応となって現れる悪循環が描かれている。記事は、EPAによる外国人職員にも触れているが、そこでは彼女らの日本語能力の低さが指摘され、外国人の導入は問題の解決にならない、と結論付けている。
一方、文春にコラムを持つ哲学者の適菜収氏は、実習制度の拡大を、安倍政権の「蛮行」とバッサリ切り捨てている。氏は制度そのものを、国連や米国から「人身売買」「強制労働」と批判されている代物だとしたうえで、日本語力の習得を求めない今回の適用拡大は、介護現場でのサービスの低下に直結する、というのである。
移民問題に関しては、ここに来てまた別の騒動も持ち上がっている。産経新聞のコラムで作家・曽野綾子氏が移民導入に賛意を示す一方、南アでの見聞をもとに、異人種の住民は居住区を分けたほうがいい、と述べ、南ア政府から「アパルトヘイトを許容し、美化した恥ずべき提案だ」と抗議された一件である。文春では、曽野氏による弁明に誌面を割き、言わんとしたことは、生活習慣の違いによる摩擦を防ぐための「区別」の必要性であり、人種差別を認めたわけではない、としている。
南米で7年間、日本人移民について調べ、新聞記者時代に来日外国人労働者の記事も書いてきた筆者は、こうしたテーマには持論がある。規制論者からも共生論者からも受けは悪いのだが、移民受け入れに際しては、同化と定住こそが重要だ、という意見である。
実習制度もそうなのだが、政府や経済界はあくまで「労働力」という扱いに限定して、さまざまな制限下で在留を認め、一定年数を過ぎたら帰国してもらう原則に固執している。筆者に言わせれば、根本から間違ったスタンスである。
そんな条件下で来日する外国人は、あくまでカネ、稼ぐことだけが目的であり、日本社会に溶け込む努力には何の関心もない。それでいて、いくら規制をしたところで必ずや抜け穴は広がり、不法残留者は拡大してゆく。国際結婚という道もある。
そう考えると、労働力の時限的受け入れ、という形の移民導入はやはり、愚策でしかない。むしろ、日本文化を愛し、日本に骨を埋める覚悟のある外国人のみに門戸を広げるべきなのだ。日本語能力も文化への適応力、順法精神も、そうしたモチベーションのあるなしで、まるで違ってくる。
日本人になりたい人、そのための学習努力を積み重ねてきた人、そんな人を精査して受け入れれば、結果的に労働人口も拡大する。日本にいる間、職場と宿舎だけに縛り付け、何年かしたら帰国してもらう。そんな方策は本末転倒で、絶対にうまくは回らない。強制的に回そうとするからこそ、国外から指弾される「奴隷労働」になってしまうのだ。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。