小雨のちらつくある日、筆者(同世代のプロ野球選手がほとんどいなくなった30代後半)と記者(プロ野球ではベテランと呼ばれるようになった30代前半)が訪ねた先は、当コーナーでお馴染みの東京ビッグサイト。世界有数のロボット展覧会である『2011国際ロボット展』を取材するのが目的だ。
さすがに世界有数の展示会だけに、会場の広さは大きく、展示物のバリエーションも様々。
工業用ロボット一つとっても、従来のような「巨大な腕」「巨大な指先」だけが動くものだけでなく、限りなく人に近付いたものが増えてきていることが印象に残った。工場内で人と一緒に作業することや、“人専用”のデバイス(普通のねじ回しやレンチなど)をロボットと共用できるメリットがあるとのことだが、実際には開発者の趣味も色濃く反映されているのかも知れない。
医療用ロボットに目を転じてみると、歯科医訓練用の患者ロボット『SIMROID』が目に留まった。歯科臨床実習用ヒト型患者ロボットシミュレーターとして、一般臨床で使われている器具を使い、歯の切削などの歯科診療ができるという。
「口を空けてください」の声に反応して口をあけ、下手な施術には「痛い!」という声と表情で応えるロボット。診療後にはロボットが受けた負担や診療手技、診療態度を評価して、モニターにフィードバックするという。複数のTV局が撮影しているほど注目を集めていた展示だった。
再び会場全体に目を移してみると、パワーアシスト系のロボットが各所で目に付いた。
盲導犬代わりのロボットから、膝をサポートするもの、脚全体をカバーするものなど、ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に出てくるパワードスーツの一部のようなロボットは、多くの来場者の目を鷲づかみにしている。
筆者「今回の展示ではこの手のモノが多いようだね」
記者「そういえばこんなセミナーをやってますけど、この辺のことと関係あるんじゃないすか」
と、記者に促されて聴講したのが「介護の課題を最新ロボット技術の駆使で解決する」というセミナー。なかでも「神奈川県『介護ロボット普及モデル事業』の取り組み」と題する社団法人かながわ福祉サービス振興会介護ロボット推進室・関口史郎室長の講演は、興味深いものだった。
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日本における高齢化率は2015年で26%となりますが、これが2055年には40.5%に達すると予測されています。一方で、現在約120万人の介護職員は、2025年には210〜250万にまで増えると予測されています。つまり、増え続ける要介護者に対して、介護職員の数が足りなくなってきつつあるわけです。そこで、このギャップを埋めるための切り札として、ロボットのニーズが高まりつつあります。
そこで私たちは、県内の企業、大学と連携して介護ロボットの普及推進事業を始めました。目的は「要介護者の自立、身体動作支援」、「介護負担軽減、人手不足解消」という介護施設の課題と、「新産業であるロボット関連産業の育成」の2つ。平成22年度には、「HAL福祉用」(自立・身体動作支援、歩行支援ロボット)、「眠りSCAN」(睡眠管理システム)、「パロ」(癒しロボット)、「りーだぶる」(読書支援ロボット)の4つのロボットを試験導入しました。
(HAL) (PARO)
また、介護ロボットについてのアンケート調査(特養69施設、回収率43%。老健22施設、回収率14%。特定63施設、回収率39%。不明7施設)では、負担感が強く、ロボット代替の期待感が最も強いのは「移動・移乗の介助」であり、負担感が強い一方で代替の期待感が最も弱いのは「排泄介助」という結果であることも明らかになりました。
今回のプロジェクトを通してハッキリしたことは、介護ロボットを単純に導入するだけではダメであるということです。利用方法など「誰に対してどのように使うか」の運用技術こそが重要であり、今後の普及のためにはハードの改良やコストダウン以上に、ソフトである「マニュアル化」や「指導員の育成」などに注力する必要があることが再確認できました。
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自力歩行が困難な被介護者の脚、腰の筋肉を文字通りアシストするHALのデモンストレーションの動画では、機械に導かれて動かなかった脚が一歩、二歩と歩みを進めていく様が観られたが、「確かに人力のみの介護では、ここまでできないだろう」と思うと同時に、「下手に事故を起こしたら骨の一つや二つは軽く折れるだろうなぁ」「確かにロボットを知り尽くした介助者がいなければ使えないわね」ということを確信させるものだった。
現在の技術でも介護に役立つロボットは作れるのだろうし、量産すればコストの問題も片付くのだろう。しかし、講演で指摘していたように、それを使う介助者の育成と、その前段階にあたる「ロボットの啓蒙」こそが喫緊の課題なのだと実感。その意味では、工業やエンターテインメント領域だけでなく、医療や介護を初めとする、今後ロボットの需要が急伸するであろう領域を対象とした専門的な展示会があってしかるべきではないかとも感じた。(有)