安倍政権に顕著な特徴として、自らへの批判に異様なほど激しく牙をむき、敵意を露わにする傾向が挙げられるが、その影響はものの見事に広がって、各報道機関はこれもまた、過去に例がないほどまで委縮して、政権批判を抑制するようになっている。そのことは新聞やテレビの報道関係者と接している中で、筆者自身、ここ数ヵ月、痛感することだ。 


 しかも昨今は、政府を批判する者に即、「反日」というレッテルを貼る嘆かわしい風潮もはびこって、政権による“異論封じ”を助けている。 


 そんな事情もあってのことだろう。このところ雑誌メディアでは、あからさまに左派的な文化人を起用するのでなく、同じ保守陣営の論客に安倍政権の暴走や狭量さを批判させる手法が、目立つようになった。裏返せば、保守派を自認する人々の間ですら、目に余る専横が、現政権には現れてきているのだ。 


 週刊現代は『「権力のなんたるか」を知り尽くした男 鈴木宗男だから言える 安倍総理は本当に分っているのだろうか』として、現在、「やまりん」事件有罪確定で失職中の元衆院議員・鈴木氏のインタビューを掲載。99年にキルギスで起きた日本人人質事件に官房副長官として関わった経験から、鈴木氏は今回のイスラム国人質事件についての安倍政権の対応を批判している。 


 それによれば、今回の事件では、湯川遥菜さんの拘束が判明して5ヵ月あまり、後藤健二さんの拘束判明後約2ヵ月、という期間あったにもかかわらず、政府の具体的な動きがなく、外務省の人材不足が露呈したという。鈴木氏は、安倍総理が「今この国が迎えている困難を本当に分っているのだろうか、と心配になる」と苦言を呈している。 


 週刊朝日は『自民党重鎮たちが安倍流を叱る』として、山崎拓氏と古賀誠氏のインタビューを掲載した。こちらはさらに手厳しく、山崎氏は、ひたすらにアメリカの後方支援などを拡大しようとする安倍政権の姿勢に「安倍首相は、自分がしていることの恐ろしさをわかっていない。『戦後以来の大改革』などと言って、タブーを破った快感に酔いしれて、個人の名誉心でやっているのです」と批判する。 


 さらには「日本は戦前の軍国主義に回帰しつつあるように思える。取り返しのつかない事態になる前に、誰かが止めなければいけない」と、かつて自民党内の防衛族・タカ派と言われた山崎氏が、まるで社会党のようなセリフまで口にして、危機感を示している。 


 古賀氏も同様で、「国民の皆さんにはまだ、日本がすぐ戦争に巻き込まれるという逼迫感はないかもしれません。しかし、一度開いた小さな穴は、知らぬ間にどんどん広がってしまう。戦後70年の今年、手遅れになる前に、もう一度立ち止まって考える必要がある」と述べ、自民党内の“ハト派”の奮起を求めている。 


 個別議員の醜聞などでしか政権を叩かない文春や新潮でも、部分的には連載コラムなどに批判の声が垣間見える。とくに文春『今週のバカ』の執筆者で、保守論客の適菜収氏はこのところ、安倍批判を強め、西川・前農水相の問題を取り上げた今週の同欄でも、TPP交渉を例に「自民党は『聖域』を守れないことを最初からわかった上で国民を騙したのである。でもバカはバカだから騙されていることに気づかない。だから安倍政権の支持率は落ちないし、国が傾いていく」と激烈な表現で政権を攻撃する。 


 それにしても、こうした一部保守派が細々と政権批判を口にするだけで、リベラルとされる人々がもはや有効な批判をなし得ない現状が情けない。そして、こうした保守派の人々ですら、政権批判をした途端、「反日」「サヨク」というレッテルを貼られる右傾化世論が恐ろしい。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。