週刊文春が小泉進次郎衆院議員と復興庁元職員の女性との深夜の密会をスクープした。『初ロマンスのお相手は30歳の美人元秘書 小泉進次郎が抱いた復興庁の女』という6ページの巻頭特集である。


 34歳の独身男性なのだから「初ロマンス」のはずもなく、「だからどうした」のひと言で終わる話だが、美男子の誉れ高い次世代のプリンス、ということで、週刊誌記事としてはやはりインパクトがある。その一方、最近、政治的スタンスが微妙な文春記事ということで、背景を勘ぐる気持ちも湧く。


 第2次安倍政権の誕生以後、官邸ベッタリの誌面展開を続けてきた週刊文春だが、先月には突如として政権批判を特集した。それはそれ、これはこれ──。スクープのネタをつかんだら、右左やタブーに関係なく食いついて放さない。そんな果敢さが、ひと昔前までの文春の迫力であったが、改めてそんな原点に戻ろうとしているのか。それとも、首相周辺にとって進次郎氏は疎ましい存在で、取り立てて配慮する必要のない対象に過ぎないのか。いろいろと想像は渦巻くが、何にせよ、久しぶりに文春らしい激撮・直撃ネタだった。


 総合週刊誌全体を見渡せば、このところの各誌は、世論の激動に戸惑っているように見える。安保法制をきっかけに、あからさまになったネット世論とリアル世論の乖離。そのことへの態度が定まらないのである。


 商業週刊誌は、やはり売れてなんぼのメディアだ。世論の趨勢には敏感であろうとする。近年は、インターネットという便利なツールの拡大で、過激に右寄りで排外主義的なネット世論に引きずられがちだった。


 だが、法学者の専門的意見すら一顧だにしない現政権のあまりの強引さに、腰の重いこの国のサイレントマジョリティーも、声を上げ出した。その結果が各地で始まった安保法制反対デモであり、政権支持率の急落である。


 こうした地殻変動に敏感に反応してみせたのは、総合週刊誌より、女性自身や女性セブン、週刊女性などであり、週刊プレイボーイやセブンティーンといった若者向け雑誌だ。“オジサン向け雑誌”は、未だに様子見を続けていて、政権に批判的な現代やポスト、政権寄りの文春や新潮のいずれもが、従来の路線の延長線上で控えめな記事しか載せていない。


 例えば、今週のポストは『風向きが変わった! 中堅シンパも新人も安倍から逃げる逃げる』と銘打って6ページの特集を組み、創価学会員にまで造反の動きが現れたことなどを報じているものの、一方で本文中、若者のデモを批判・冷笑する有名人の声を織り交ぜるなどして、両にらみで保険をかけている。


 ここ半世紀近く、トンと見ることのなかった久々の地殻変動だが、かと言って世論が突然に“左傾化”したわけでもない。あまりにも極右の支持層に引きずられる現政権の暴走ぶりを見て、穏健派やノンポリの人々が声を上げるようになったのである。


 極端に右にぶれた流れを中央に引き戻す。極めてまっとうな民の声である。保守系の雑誌にしてみても、かつての自民党主流派を基軸に考えれば、同じ側に立つことはできるはずだ。専守防衛の自衛隊の存在を明文化しようという改憲論と、自衛隊の任務そのものを拡大することはまるで違う。しかも、現政権はそのことを現行憲法のまま押し通そうとしている。


 極右・ネトウヨとまともな保守の間に線を引く。それは保革の別以上に大切なことだと筆者は考える。インターネットの普及で、醜悪な罵詈雑言やヘイト的言説が横行する言論空間が広がり、それに呼応するように異論を無視・排除して立憲主義を破壊しようとする政治が力を得た。そんな勢力が、この国の主流であっていいはずがない。  

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三山喬(みやまたかし)  1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。