東京女子医科大学東医療センター
内科教授
佐中 孜氏
日本医学ジャーナリスト協会の月例会で、東京女子医科大学東医療センターの佐中孜教授が「慢性腎臓病(CKD)」について演述した。人工透析の患者は右肩上がりで増加しており、07年に作成した「診療ガイドライン」に触れての話となった。
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加齢によって人間の臓器の機能は衰えていく。これはどうしようもないが、生活習慣の良し悪しでの臓器の疾病は防ぐことが出来る。誰もがヘルシーエイジングを望んでいるのだろうから、健康維持に留意することが必要である。
尿は腎臓の鏡、窓といわれる。尿蛋白が出ているか否か、血尿が出ていないか、調べることで腎臓の状態がわかる。肝臓と同じで腎臓も「沈黙の臓器」といわれている。かなり悪くなるまでわからない。自覚症状が現われない。慢性腎臓病になって、糖尿病や高血圧を併発し、腎炎で機能が低下すると、血液中の老廃物を尿として体外へ排出することが困難となる。さらに悪化が進んで、腎臓の機能が健康時の10%程度になると、人工透析に入らざるを得なくなる。
透析患者数は日本も米国も右肩上がりで増えている。世界的な傾向でもある。日本では毎年3万人が罹患している。死亡者は2万人なので1万人ずつ増えていることになる。07年に27万5千人だったので、現在の透析患者は30万人を超えているかもしれない。なぜ多いのか。いくつかの理由を挙げることができる。
①日本の透析技術がすぐれていて、長生きする患者さんが増えている
②腎臓移植の普及率が低い
③日本人は体質的に慢性腎臓病になりやすい
④診断と治療が難しい。
腎臓は、他の臓器と違って、気の遠くなるようなことを瞬時にこなしている。体内の老廃物や毒素を排泄する、赤血球をつくる働きを助けるホルモンを分泌している、血液中の水分や塩分のバランスを一定に保っている、血圧を適切にコントロールする、ビタミンDを活性化し骨を丈夫にする——等々の働きをしている独特の臓器なのである。
病態は5段階に分けられている。糸球体の濾過値、血清クレアチン値が指標となる。
①正常または上昇
②軽度低下
③中等度低下
④高度低下
⑤末期腎不全(透析か腎移植が必要である)。
③までの段階なら回復の見込みがあるが、④と⑤は再生は無理となる。どんな病気でもそうだが、腎臓の場合はとくに早期発見、早期診断、そして即治療が必要である。
治療法は五大別できる。原疾患治療、食事療法、アンジオテンシン抑制薬(血圧調整)、経口吸着薬、合併症治療である。合併症の場合は、症状の一つひとつに対処しなければならない。糖尿病、高血圧、脂質代謝異常、貧血、動脈硬化症、低栄養などである。五大別できるいずれの治療法においても、患者さん本人が指揮者になる必要がある。医師まかせ、薬まかせではダメである。日常生活の注意点は次の4項目である。
①過労を避け、規則正しい生活を送る
②ストレスをためない
③体を動かしすぎない
④疑問点があれば遠慮なく相談する。
透析は腹膜と血液の2種類ある。自分の体の中の「腹膜」を利用して血液をきれいにする。週に3回通院して、器械を使って血液を体の外できれいにする。最近は過程での透析も普及しつつある。
腎臓移植は、働きの低下した自分の腎臓の代わりに、他の人の腎臓を移植するもの。ふたつある腎臓の1つを提供してもらう生体腎移植と、亡くなった方からの提供を受ける献腎移植とがある。(寿)