東京医科歯科大学
田中雄二郎氏


 日本医学ジャーナリスト協会の12月研究会で、東京医科歯科大学の田中雄二郎先生が講演した。演題は「グローバル・へルスケアと日本の医療」である。

 

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 グローバル・ヘルスケアというのは、近隣諸国に医療スタッフを派遣したり、看護師を導入したりすることを意味しているが、ここでは医療ツアー、つまり「ある国に住む人が別の国へ移動し医療を受けること」と受け止めてほしい。


 タイの「バムルンラード病院」は、広々とした敷地に建っていて、プールもあり、病室はホテルの部屋のようである。日本語のホームページを開いており、クリックすると航空券も買える、とある。05年にはタイ全体で100万人の外国人患者を受け入れている。


 インドも同様の動きをしている。米国で登録されている医師数は約80万人、うちインド系はインターンや医学生を含めると6〜7万人と多く、約1割を占めている。インドの医療関連マーケットは12年までに現在の222億ドル(GDPの5.2%)から500〜690億ドル(GDPの6.2〜8.5%)と推計されている。


 なぜ医療ツアーが発生するかというと、住んでいる国では受けられない医療が受けられるからである。その最たるものが臓器移植であろう。日本国内ではドナーが不在か不足の場合が多い。次いで高度先進医療が受けられるということ。さらには低コストの医療、ということになる。医療機関の事情で待たされている間に、タイやインドへ行ったほうが早く治療してもらえるし、航空運賃もペイするとなれば、医療ツアーでということになる。


 英国のブレア政権が97年に掲げた数値目標がある。


①救急外来での待ち時間は4時間以内

②家庭医受診は48時間以内

③紹介先の病院外来受診は13週間以内

④紹介先の病院入院は26週間以内

⑤家庭医から紹介されて、病院で治療を始めるまでは18週間以内(4.5か月以上かかっているということ)

⑥家庭医からがんの疑いでの病院初診は2週間以内

⑦がんの診断がついて治療が始まるまでは4週間以内。


②は07年に74%の達成率となり、⑤は50%の達成率となった。


 グローバル・へルスケアを担う国にとっての長所は外貨獲得による経済的貢献であり、短所は国内の医療格差の拡大、ということになる。しかしタイのバムルンラード病院の場合、外国人患者が右肩上がりに増えて、国内患者がほぼ横ばいで減っていないから、増収傾向が続いている。


 さて日本の場合はどうか。大腸がんの5年生存率は世界最長、心筋梗塞の死亡率は世界最低、脳血管障害で入院後30日以内の死亡率は最低(死なないで退院する人が多い)、各種診断機器は世界中でもっとも多い。虫垂炎(盲腸)の治療費の国際比較をみても日本は一番安い、などと極めていいデータが揃っている。したがってグローバル・へルスケアの担い手となる可能性は非常に高いといえる。診断、治療技術といった医療水準は最高レベルにある。医療コストは最低レベルにある。問題は医療供給体制である。看護師数は世界各国と比べて平均値だが、医師は非常に不足しているし、再生産性も少ない。医療崩壊の見方もある中で、ではどうしたらいいのか。外国人医療者の導入、さらには英語が話せる高度専門医の育成が急務ということになる。


 グローバル・へルスケアが周辺諸国で始まっている。その受給者となるか供給者となるか。日本は供給者となる要件をほぼ満たしている。あとは社会的にコンセンサスを得られるかどうかである。


それには


①メリットが市民に還元される

②医療への過大な要求をしない意識の醸成

③国際性を備えた医療人の養成が課題となってくる。


(寿)