7月22日から26日の5日間、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)で、国際原子力機関(IAEA)との協定に基づく「新興国の脳核医学分野の医師のための実習プログラム」が実施され、最終日のディスカッションが公開された。
◆実践的プログラムに高い評価
「原子力の平和利用促進」は、「原子力の軍事的利用への転用防止」と並ぶIAEAの重要な使命であり、組織内に「核科学・応用部門(Department of Nuclear Sciences and Applications)」もある。2018年11月には、日本の大学と医療機関11施設からなるコンソーシアムがIAEAと協定を結び、「核医学診療の臨床応用を促進する人材開発のための教育カリキュラム」を構築することになった。
7月18日に亡くなった天野之弥事務局長も、2017年の日本核医学会学術総会の特別講演で来日した際、「発展途上国に目を向けた日本の医療技術の海外展開、情報発信への期待」を述べ、関係者を激励したという。
NCNPの「実習プログラム」はコンソーシアムとして初の活動で、中国、マレーシア、タイ、スリランカ、アラブ首長国連邦(UAE)から、5名の医師が参加した。続く「国際ワークショップ」には、アジア各国から26名の核医学に携わる医師が参加し、NCNPのノウハウを公開して交流を深める予定になっている。
担当は、脳病態統合イメージングセンター(IBIC)の松田博史医師(センター長、日本核医学会理事)。NCNPでは特に、認知症、パーキンソン病、てんかんに焦点を当て、症例発表と病院放射線科での診療、ミニレクチャーなどを組み合わせたプログラムを展開した。
26日に公開されたのは「アルツハイマー病(AD)患者さんを対象としたアミロイドPET読影法実習」。参加者には10例のアミロイドPET画像(出力紙)が事前に渡されている。各ケースについて、まず視覚評価に基づいて議論するが、中には判断が難しい非典型例が含まれる。
そこで、松田氏らが開発したソフトウェアを用いて「アミロイド集積陰性の健常者のデータベース」と比較し、統計学的に有意な異常集積部位をカラーマップで表示。このデータの追加で客観的な判断が容易になることを参加者は実感したようだ。
26日の実習に限らず、5日間を通して「内容が非常に実践的で有用だった」、「実習環境の素晴らしさとホスピタリティに感銘を受けた」、「帰国して早速活用したい」などの声が口々にあがった。
松田博史氏(IBICセンター長)
◆核医学先進国としてアジアをリード
「核医学(nuclear medicine)」は、「放射性医薬品を用いて治療や診断を行う医学の一分野」であり、「放射線の利用は適切な医学的管理下で、悪影響をできる限り排除する」ものである(日本核医学会)。
普段あまり「核医学」というくくりを意識しないが、PET(陽電子放射型断層撮影)やSPECT(単光子放射型断層撮影)は生体内に投与した放射性医薬品が臓器や組織に集積する様子を画像化するin vivoの「核医学検査」で、診断、病期の確認、予後予測、治療効果判定などに有用だ。
X線を用いるCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像)では精度の高い形態情報が得られるが、生きた状態のまま生体内の遺伝子やタンパク質の挙動を観察する「分子イメージング」の分野では無力で、「脳核医学」に対する期待が高いという。
アジア地域の高齢化に伴い、認知症、パーキンソン病、てんかんなどの精神・神経疾患が増加しているが、脳の核医学検査画像は読影が難しく、専門家が少ない。そこで、「アジア地域における脳核医学の普及を支援する」うえで日本の施設に白羽の矢が立ったという背景がある。
「実習プログラム」参加者のうち、中国の医師は「1990年代半ばから画像診断装置が導入されていたが、これまであまり活用できていなかった。しかし、今回の習得したことを認知症と他疾患の鑑別に役立てられると思う。また、現状では研究目的にしか使っていないが、臨床にも活用できるよう政府に働きかけていきたい」と語った。
また、UAEの医師は「病院で画像診断装置を買い揃えられても、どう使いこなせばいいか学べなかった」と、今回の機会を喜んでいた。
少し前のデータになるが、各国の現状をみると、各参加者が国を代表して脳核医学を学びにきていることがわかり、意欲にあふれていることにも頷ける。
2022年には、京都で世界核医学会学術総会も開催される(大会長:絹谷清剛 日本核医学会理事)。これからの3年間、コンソーシアム*に参加している大学や医療機関がアジア太平洋諸国との連携を深め、その成果を総会で披露してくれることを期待したい。
*NCNP以外にコンソーシアムに参加しているのは、大阪大学大学院医学研究科、藤田医科大学医学部、北海道大学大学院医学研究科、国際医療福祉大学、金沢大学医薬保健学域、京都大学医学部附属病院、国立がん研究センター、総合南東北病院、東北大学大学院医学系研究科、東京医科歯科大学
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。