医療法人医誠会医誠会病院
レディスセンター長
金岡 靖氏
過多月経とはどのような症状なのか? 筆者のような男性から見れば、過多月経という疾患名からは「単に生理が頻繁になるだけでは?」というイメージしか思い浮かばない。しかし、実際には想像以上に厄介な病気とのこと。セミナーでMEAの体験談を語った40代の女性曰く——
「手の平サイズのレバー状の血塊が数日に渡って出続ける」「社員旅行があったが、タンポンやナプキンも意味なく、ジーンズも汚してしまった」「当然、温泉にも入れず、布団を汚すかも知れないと思い一睡もできなかった」「これまで生理痛はなかったが、のた打ち回るような痛みがあった」「生理自体も10〜14日に伸び、仕事も休まざるを得なかった」
——という。極めてハードかつ厄介な症状だ。日常生活は生理に振り回され、仕事、趣味、家事などをつつがなくこなすことは望めないそうだ。
そんな過多月経の治療に、大きな光明が見えてきた。というのも、平成24年の診療報酬改定で、過多月経の新しい治療法である「マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)」が保険収載(K863-3 子宮鏡下子宮内膜焼灼術 17810点)されたのだ。このMEAとは、いったいどのようなものなのか? 医療機器を販売するアルフレッサファーマ主催のセミナー「切らずに治す、過多月経の新たな治療法」を取材した。
ここで、過多月経の治療法の歴史について振り返ってみよう。かつては、ホルモン剤や止血薬を投与する「薬物治療」か、筋腫、ポリープ及び子宮そのものを摘出する「手術」の二択しかなかったが、1960年代より第三の選択肢が登場する。それは、子宮内膜を化学的に凝固させたり凍結させることで組織を壊死させ、過多月経の根本治療を目指す治療法(=アブレーション)である。80年代半ばには「子宮鏡下レーザー凝固」による治療法が登場。その後、第一世代の子宮内膜アブレーションとして「子宮鏡下子宮内膜切除術(TCRE)」が確立された。今回のセミナーで取り上げられた「マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)」は、子宮鏡を使わない第二世代の子宮内膜アブレーションである。セミナーの講師、医療法人医誠会医誠会病院レディスセンター長の金岡靖氏はこう語る。
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MEAで使用するマイクロ波とは、端的にいえば「電子レンジに使われている電磁波」です。私たちが使用しているマイクロ波手術器『マイクロターゼ』は、周波数2.45GHzのマイクロ波を使うもので、この周波数自体、家庭用電子レンジで使われています。この医療機器自体は、「生体組織の止血・凝固」に用いる装置として、主に肝細胞がん、前立腺がんなどを熱凝固させる治療に用いられてきたもので、約30年前に厚生省(当時)より製造承認を受けています。
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細長いボールペンのような挿入器具(アプリケーター)を患部に当て、そこから放射されるマイクロ波により患部を加熱・凝固させる。いわば、“局所的な電子レンジ”といっていい。
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MEAは従来の治療法に比べて、より少ない手術侵襲で済み、より早く日常生活に復帰でき、より低額な医療費で済むことにメリットがあります。子宮にアプリケーターを入れ、過多月経の原因となる筋腫や子宮内膜をピンポイントで加熱して、患部を壊死させる——このように治療するため、子宮内鏡を使う必要はありませんし、手術時間も短時間ですみます。また、身体にメスを入れることもありませんから、手術の翌日に退院することも可能です。
このようにハッキリとした長所があるため、わが国に先行して子宮内膜アブレーションの普及したイギリスでは、過多月経に対する手術件数が大きく変わりました。97〜98年の子宮摘出術は年間20000件でしたが、これが04〜05年には年間7179件まで減少。一方、子宮内膜アブレーションは97〜98年で年間3847件であったのが、04〜05で年間9701件と倍以上に伸びています。
現在、日本における過多月経の推定患者数は600万人程度といわれています。こうした国内の患者にとって、従来の手術に比べて安全で、早く、安価なMEAが保険適用となったことは、大きな意義があると思います。
MEAの適応は、
①過多月経のために子宮摘出術その他の外科的治療が考慮される女性
②過多月経の制御のために保存的治療が無効な女性
③妊孕性を温存する必要のない女性
④妊孕性を温存する必要はないが、子宮摘出は回避したい女性
⑤可及的に子宮内膜悪性病変が除外できている女性
⑥すべての子宮内膜にマイクロ波アプリケーターが容易に到達できる女性
⑦子宮筋層の厚さが10mm未満の部位がない女性
となっています。
このうち⑦については、子宮内膜を加熱する際、子宮筋層が薄すぎると子宮の外にある内臓を加熱してしまい、組織の一部を壊死させてしまう可能性があるためです。この点については、加熱する部位の子宮筋層の厚さが十分であれば問題ないといえるでしょう。
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妊娠に必要とされる子宮内膜を“壊す”治療法だけに、妊娠を考えている20〜30代の女性にとっては縁のない治療法だろう。しかし、40代で閉経まで10年以上の時間があり、かつ、深刻な過多月経を抱えている女性にとっては、子宮を温存しつつ身体、予算両面で負担の少ないMEAは、有力な選択肢の一つとなろう。
これまでの国内の成績では、過多月経の改善が90%程度(MEA後5年以内に子宮摘出術を必要としたケースは5%程度)という。開腹を伴う子宮摘出術はもちろんのこと、従来型の子宮内鏡を使用したアブレーションでも、「手術に時間がかかってしまい患者が合併症を引き起こすケースもあった」(金岡氏)とのこと。この点、複雑な手技を必要とせず、手術時間も短いMEAは、患者への負担という点をとれば、明らかに他の手術よりもアドバンテージがあるといっていい。
「切らない治療と傷の小さな手術」であるMEAは、果たして過多月経手術の新たなスタンダードになり得るのだろうか?(有)