順天堂大学医学部
呼吸器内科 客員教授
福地義之助 氏


 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社はこのほど、肺の生活習慣病といわれるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の啓発キャンペーンを開始した。長年の喫煙習慣がCOPDを引き起こすことから、その早期発見・治療を目的とした記者発表会を開き、順天堂大学医学部呼吸器内科・客員教授の福地義之氏が講演した。


◇◇◇


 COPDは以前、「慢性気管支炎」と「肺気腫」の二つに分けて呼ばれていたが、現在では総称してCOPDと呼ばれている。患者さんの90%以上が喫煙歴を持っているため、別名「タバコ肺」とも呼ばれている。約530万人の患者がいると推計されており、厚生労働省の統計によると年間1万7千人弱が死亡している。これは男性の死因順位の第7位にあたる。咳、痰、息切れといった症状が見られる。一般的に咳や痰は風邪のせい、息切れは歳のせいだと思われ、疾患が見過ごされがちだ。治療せず放置しておくと症状は進行し、日常生活に支障をきたすようになる。重症化すると死に至ることもある。早期発見・治療が必要だ。

 COPDについての基本知識をまとめると以下のとおりになる。


① 主にタバコの煙によって生じる肺の異常は炎症である
② 肺胞が破壊された肺気腫は、細気管支炎がさまざまに組み合わさって病理変化する
③ 肺気腫になると、肺の弾力性が低下し、過膨張する
④ 肺気管支炎になると、空気が流れる際の抵抗が増大する
⑤ 一生懸命努力しても、息を速く吐くことができなくなる。
⑥ 診断の手がかりは喫煙歴、咳、痰、息切れである
⑦ スパイロ検査での一秒率が70%未満
⑧ 60〜70歳の高齢者に多い


 COPDは、肺の病気ではあるが全身性疾患ととらえる必要がある。20歳代女性による喫煙の増加は問題だ。咳や痰はありふれた症状だが侮ってはいけない。とくに医師への啓発が大事である。30歳代でのリスクは男性の前立腺がん、女性の乳がんよりも大きい。COPDであると、動脈硬化症を併発しやすくなり、糖尿病、骨粗しょう症、消化性潰瘍、うつ病などとの相関関係も大きくなる。それにもかかわらず、一般人や一般診療医ともに認知度が低い。そのために未診断例が多く、治療が遅れがちになる。

 千人余の人を対象にした認知度に関する調査結果がある。潜在患者の8割がCOPDについて知らないと答えている。ということは、死に至る重篤な疾患であるということも知らないのだ。また潜在患者の約半数が「自分はCOPDにはかからない」と思っている。しかし妻をはじめ、家族から勧められたら受診しようと思う潜在患者は約8割もいることが分かった。予防と治療が可能な疾患なので、キャンペーンなどで周知徹底することが大事である。(寿)