山口大学院医学系研究科・眼科学
西田輝夫氏


12回千葉ビジョンフォーラムで、山口大学院医学系研究科・眼科学の西田輝夫教授が「角膜と酸素」について演述した。酸素は生命維持に必要な物質だが、一方で細胞に障害を与える存在でもある。その酸素と角膜との関係を明らかにした。


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 外界の情報の80%は「見る」ことから入手している。視力に以上があると情報の質と量が低下する。近視、遠視、乱視などは屈折の異常である。それを強制する方法の1つにコンタクトレンズがある。


使用にあたっては、材質・装用形態・消毒の3つの要素が大事である。

 

角膜は目の表面に位置し、黒目にあたる部分を覆っている厚さ約0.5ミリの透明な膜である。透明性を保つため角膜には血管が存在していない。細胞は通常、血管を通して酸素の供給を受けている。

しかし角膜には血管がないので、角膜上皮細胞が外気から直接酸素を取り入れている。そのため角膜に直接装着するコンタクトレンズの開発では、酸素の供給をどうするかが最大の課題となっている。

 

裸眼は、酸素を①大気中から②涙液から③角膜の裏にある前房水から④角膜周囲にある輪部血管から、それぞれ取り入れている。


コンタクトレンズ装用眼は、主に涙から取り入れている。ハードコンタクトレンズは、瞬きをするたびにレンズが眼球上を動く。そこでレンズ下の涙が酸素を多く含んだ新しい涙と交換される。


ソフトコンタクトレンズは、やわらかくて弾性のあるレンズがたわむことによって涙液が交換される。

 

角膜上皮は、無傷の互いに密着した細胞層で、外部の酸素、ガス、微生物などさまざまな化学物質を遮断する「バリアー」としての重要な働きをしている。同時に角膜自身の透明性も維持しなければならない。


1週間ほどで新しい上皮と入れ替わっている。角膜上皮は、細胞分化で基底細胞、翼細胞、表層細胞という多層構造になっている。アポトーシス(プログラム細胞死)によって死んだ細胞は、涙液中に脱落して、新陳代謝がはかられている。酸素はこうした細胞分化を促す信号として働いているということがわかってきた。

 

酸素は身体に必要であり、角膜の代謝維持に不可欠である。しかし角膜上皮細胞はバリアーとして酸素から身体を守っているという面もある。この酸素の二面性をさらに研究して、コンタクトレンズの開発などに取り組むことが大切である。

(寿)