株式会社ベル・メディカルソリューションズ
代表取締役社長
佐藤 公明氏


「筆者さん、情報交換しながら、採用原稿製作にご協力いただきたいので、たまにはおいしいモノでも食べに行きませんか?」


 という記者の言葉につられて、“公用”でおいしいモノでも食べつつ適当に写真を撮って帰るのも悪くないナ、という不埒な気持ちで出席した「株式会社ベル・メディカルソリューションズ 新会社設立説明会及び記念講演会」。

 

 記念講演会の演者は公益財団法人がん研究会理事(前国立がんセンター中央病院病院長)の土屋了介氏と、カロライナ頭蓋底手術センター所長・デューク大学脳外科教授の福島孝徳氏。「両氏のハナシを聞きつつ、ちゃちゃっと写真を撮って、パーティでは知り合いもいないだろうから、挨拶や立ち話抜きでオードブルにがっついて、お腹が膨れたら途中退席しよう」と思いつつ、講演会冒頭の説明会を聞いてみたら……。

  

 これが想像以上に面白いもので、冒頭3分の説明で一気に「仕事モード」に転換。「これはネタになる」と襟を正し、改めてメモを取り出し聞き入ってしまった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 さて、これを読んでいる方のなかで、ベルシステム24が四半世紀前から医薬品業界に参入していたことを知っている方はどれくらいいるだろうか? 筆者はかれこれ10年以上医薬品業界で仕事をしてきたが、ベルシステム24の存在は知っていても、この会社が医薬品業界で確固たる地位を築いていたなんてことは、恥ずかしながらこの講演会に出るまで想像もしていなかった。

 

 ベルシステム24は、社名の通り「電話転送機による24時間電話業務代行サービス」から事業を発展させ、日本におけるCRM(Customer Relationship Management)ビジネスのトップを走ってきた企業だ。そんな通信ビジネスを手掛ける会社が、どのような形で医薬品ビジネスと関わってきたのだろうか?

 

 同社が医薬品ビジネスに参画したのは1986年のこと。同年、症例の登録を始めたことが契機となっている。この仕事が症例登録センターへと拡大していくのだが、被験者が安全に臨床試験に参加するための適格性の確認をしたり、比較試験で試験薬と対象薬といった薬剤群を被験者に割り付けるなどのサービスを展開。「日本のCRO事業の基礎を造った」(ベル・メディカルソリューションズ渡辺常務取締役)と自負するように、日本にCROが芽吹き始めるよりも10年も前に、その原形ともいうべきサービスをスタートしている。

 

 この症例登録センターをベースに、CROとしてのフルサービス受託に向けて動き出し——

 

●1993年——解析・データマネジメント業務開始
●1998年——市販後調査業務開始
●2003年——モニタリング業務開始
●2011年——中国・大連市に大連オフィスオープン

 

——と、ビジネスを拡大。そしてこの3月、医薬・医療関連事業を『ベル・メディカルソリューションズ』として分社化した。グランドプリンス新高輪の大ホールを埋め尽くすクライアントを集め、著名な講師を招聘し、豪華なパーティを挙行したのも、こうした歴史的背景の下、文字通り同社にとって画期となるイベントであったためなのだろう。

 

 今回の分社化について、新会社の佐藤公明社長はこう語る。

 

「医薬品業界の環境変化が加速度的に進むなか、こうした変化にいち早く対応することを目指したものだ。環境変化に追従するのではなく、その一歩先を歩むためには、医薬・医療関連事業で独自路線を築く必要がある。だからこそ分社化という決断をした」

 

 現在までにフルサービスのCROを展開し終えている以上、少なくとも臨床開発ビジネスという枠内での新展開は望みがたいといえるだろう。そうした状況で敢えて分社化する意義があるのだろうか?

 

 と思ったが、新会社の構想はよりスケールの大きなものだった。

 

 佐藤社長の語る新会社の方向性は、「トータルソリューションの提供」にある。具体的には、

 

・<創薬>:臨床開発事業を中心とした医薬品を創造するビジネス
・<育薬>:上市後の営業支援を中心とした医薬品を育成するビジネス
・<ヘルスケア>:創薬、育薬で培った情報やナレッジを活用したコンサルティング&実施部門のオペレーション等のビジネス

 

 という3つの領域でビジネスを展開することにより、医薬品開発だけでなく、上市後のフォロー、ヘルスケア市場へのサポートまでをワンストップで受託。これにより、あらゆるソリューションを提供するとともに、クライアントに対してコスト面でもマーケティング面でも大きなメリットを提供する構想といっていいだろう。

 

「<創薬>ビジネスでは、登録DMビジネスのIT化を進めるとともに、核となるモニタリング業務も拡大。近々にもモニター100人から300人体制を構築する」

「<創薬>ビジネスでのコストパフォーマンスを徹底して追及する。これは効率的サービスの提供によって行うもので、大連のオフィスは、そのために設立したものだ」

「<育薬>ビジネスでは、販売後の情報収集や臨床研究、MR支援事業を通して、上市後の新薬を市場に浸透させ、有力な製品へと育成する手助けをしたい」

「<創薬><育薬>ビジネスで培ったナレッジと情報を活用して、<ヘルスケア>領域でもビジネスを展開する。その形は、情報を核にコンサルティングなどを展開するようなものになるだろう」

 

 以上の講演会での佐藤社長の言葉を、文字通りに解釈すれば、新会社にとっての基幹ビジネスである「CRO事業=<創薬>」を軸に、市販後調査や臨床研究、治験段階で得た情報を活用しての「営業支援事業=<育薬>」、上記ビジネスの資産を活用しての「ビジネス領域の拡大=<ヘルスケア>」という形で、事業領域を一気に広げようという戦略が見えてくる。

 

 それにしても、なぜ、この時期に分社化をするのか? なぜ、“本業”であるはずのCROビジネスに止まらず、MR支援事業やヘルスケア領域にまで手を伸ばそうとしているのか?

 

 03年にモニタリング業務をスタートして以来、CRMとしての強みを存分に活かしたCROとして、治験のフルサービスを受託できる体制を整えた同社であれば、“本業”であるCRO事業の強化・拡充に努めることこそが肝要にも思えてくるのだが……。

 

 ただ一つだけ確かに感じられることは、佐藤社長やベルシステム24の経営陣が、CROとしてフルサービスでの受託を実現し、他社には真似のできない優位性(=CRMとしてのシステム、ノウハウの活用)を確立するということ。そしてCRO業界でトップを目指すために“本業”だけでなく、一歩先を見据えて、医薬品ビジネスで独自路線を歩んでいくという経営判断を下したということだ。

 

<創薬>ビジネス(=治験)で得られた情報を、現場のモニターがどのような形で<育薬><ヘルスケア>ビジネスの現場へフィードバックするのか?

 

<育薬>ビジネスの中核を担うMR・販売支援システム『BM-Assist』(電話、メール、Webを使って、オペレーターがMRに代わって医師や薬剤師とコミュニケーションし、ディテーリングをサポートするシステム)の可能性はどのようなものなのか?

 

 多元的展開をすることで“本業”のCRO事業をどのように進化させていくのか? 

 

30分弱の説明会だったが、そこでは語られなかった事実、背景、可能性について、改めて取材することを決意させるに十分な内容だった。(有)