安倍首相の正式な発表を待つことなく締め切り日を迎えた今週の各誌だが、当然のことながら誌面は解散総選挙一色となった。


 しかし正直なところ、各記事を精読する気力はなかなか湧いてこない。本欄を書く必要がなければ、見出しをチラリと眺めただけで終わらせていたに違いない。


 それほどに今回の選挙は面白みに欠ける。


「国民の信を問う」と首相がいくら力んでみせたところで、選挙結果に関わらず、消費税引き上げが早まることはない。


 ポストは『首相の狙いは「白紙委任状」』として、「本来なら最大の争点にすべき、集団的自衛権の憲法解釈に伴う法改正を来年の通常国会に先送りしている」という政治ジャーナリスト・野上忠興氏のコメントを載せている。


 実際、この選挙の意味合いは“安倍政治”を認めるか否か、それ以外にはない。


 元官僚の古賀茂明氏は現代のコラムで、そういった本質が人々に認識され、事実上の争点が「特定秘密保護法や集団的自衛権、さらには原発再稼働、派遣法改正などになる可能性もある」と、淡い期待を寄せているが、現状ではなかなか難しいだろう。


 元首相秘書官の飯島勲氏は文春で「間違いなく自民党は現有議席から上積みする」と言い切っている。


 野党の弱体化・分裂状態を眺めれば、さもありなん、という話で、橋下大阪市長らの出馬が取り沙汰される選挙区を除けば、氏は「消化試合になりかねない」とまで言う。


 確かに、小沢一郎氏の勢力と“内ゲバ”に明け暮れ、自壊した民主党政権を振り返れば、それ以上に結束力のない寄せ集め野党による新政権を望む気にはなれない。


 安倍政権の“やり放題”を多少でも減速させる程度に、自民党の議席を減らすのか、それとも文字通り「白紙委任状」を手渡すか。それくらいしか、関心の向けどころは見当たらないのである。


 というわけで、21人もの候補に注目し大特集を組んだ新潮には申し訳ないのだが、小渕優子氏にせよ渡辺善美氏にせよ、それぞれの選挙区事情の各論を知りたい、という気持ちはなかなか湧きそうにない。


 あえて目の留まった情報をひとつ挙げるなら、文春が掘り下げた財務省の動きだ。


 同誌によれば、10月末の発表で大ニュースとなった日銀の量的緩和第2弾について、官邸はその背後に財務省の意図を見て取って激怒したらしい。消費税10%の実現にこだわる財務省は、その延期を阻もうとする工作を続けていたが、日銀のサプライズもまた、そうした一環の“小細工”と受け止められたという。


 選挙関連はそんな感じだが、今週、筆者が期待した“ある話題”については、どの週刊誌も取り上げていなかった。


 人気作家・百田尚樹氏の新作ノンフィクション『殉愛』(幻冬舎)をめぐる、ネット上の騒動である。


 1月に他界したやしきたかじん氏の闘病生活と、献身的に氏を支え他界の3ヵ月前に結婚した「最後の妻」の物語だが、作品発表の直後から、この女性の経歴や“下心”を疑う情報がネット上に溢れ、美談として書き上げた百田氏が猛バッシングを受ける事態になっている。


 デビュー作『永遠の0』以来、当世一の流行作家となった百田氏だが、とりわけネット上での人気はついこの間まで、絶大なものだった。


 安倍首相に近しい人脈のつながりでNHK経営委員に選ばれる一方、その右翼的でアグレッシブなキャラクターと、キワドイ発言の数々で、幾度となく社会的批判も浴びている。


 にもかかわらず、その手の天下国家・歴史認識の批判ではびくともしなかった氏の人気が、こうしたワイドショー的な“地雷”をひとたび踏むや否や、急転直下、猛バッシングの嵐に晒されているのである。


 ネット世論のダイナミズムと空恐ろしさを感じさせる出来事だが、週刊誌はなぜかこのネタに触ろうとしない。


 百田氏が、出版不況のご時世に打率10割でベストセラーを量産する希少な作家であるためだろうか。タブーなき週刊誌にもタブーはあるのか、と疑念が湧く。


 とくに、やすやすと筆を折らないイメージを誇る文春に対しては、落胆のつぶやきもネットに散らばっている。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。