22日に投開票のあった参議院選挙は過去2番目という低投票率を記録して、大方の予想通り終わった。与党の自民・公明は合計の議席を減らしつつも過半数を維持、維新を加えた“改憲勢力”は3分の2議席を割り込んだ。前回記事でざっと見た各週刊誌の予測と照らし合わせると、自民・公明・維新の議席数で“ピタリ賞”こそ出なかったが、大枠では全予測がほぼ当たった。それほどに、面白みに欠ける選挙だったということだ。


 テレビの選挙報道もかつてなく少なかったという。実際、選挙戦が始まっても、日によってはまったく取り上げない夜のメインニュースさえあった。開票日の夜、突如全局がお祭り騒ぎのように横並びで特番を流したが、タレントのデーブ・スペクター氏ら何人かの識者は「終わってから情報を流しても遅すぎる」と、苦言を呈していた。


 専門家の解説では、こうした傾向は5年前に始まった。批判的報道に苛立った自民党が「公平な選挙報道を」という文書を送り付け、テレビ局をけん制した。情けないことに、局側はニュース価値でメリハリをつける編集を事実上放棄して、同じ分数で各党を扱う自主規制を始めた。そんな報道は当然退屈になり、視聴率は低下する。その結果、番組で扱う選挙の報道はどんどん削られる。そんな“負の連鎖”の行き着く先が、今回の低投票率だったのだ。


 そんななか、この1週間、世間の関心をさらったのは、投開票の前日と翌日に行われた“異例の記者会見”だった。前者は、吉本興業の契約を解除された芸人の宮迫博之氏と田村亮氏、後者は吉本の岡本昭彦社長による会見だ。宮迫・田村両人の反撃で、会社の体質を問題視する声は他の所属芸人にも広がって、いつの間にか当初の“反社会勢力への闇営業問題”は、「中堅・若手芸人」対「経営陣」という吉本のお家騒動に発展したのだった。


 文春と新潮もこの騒ぎに食いついた。文春は『松本人志が牛耳る吉本興業の闇』、新潮は『「島田紳助」大いに嘆く! 「宮迫博之」「田村亮」造反劇へのやるせない悲憤』という大特集を組んでいる。フライデーが最初に闇営業問題をスクープした直後、宮迫氏らは報酬の受け取りを否定して、そのウソが叩かれたが、2人が捨て身の会見で吉本の“会見封じ”をぶちまけると、風向きは逆転した。ここに来て状況はやや落ち着き、「問題の本質は反社会勢力のカネ。それを直視すべきだ」という“正論”への揺り戻しが見られる。


 少数派を自覚しての意見だが、多くの人が「本質」と主張する闇営業問題について、私は“小さなこと”だと思っている。フライデーに記事が出た段階で「詐欺グループとは知りませんでした。スミマセン。カネはどこかに寄付します」と謝れば終わりだった。変にウソをついてこじれたが、それにしてもネット世論や情報番組での叩かれ方は異常だった。警察もまだ摘発していなかった団体に営業で招かれて、どうやって犯罪者と見抜くことができるのか。事後的であれ、わかった段階で非を認める。それしかない。


 今回の騒動では、吉本にも「大企業なのにコンプライアンスがダメ、前時代的」などと批判がある。私の感覚は違う。吉本がここまで巨大になり、さらなる拡大を目指す、そのことのほうがおかしいのだ。お笑いの事務所は、むしろ小さくあればいい。最近は、芸人をひとかどの文化人・御意見番のように持ち上げて、事務所ごと政府のプロジェクトに参画させるなど、どんどんおかしな風潮になっている。「品行方正な芸人」を揃えた「きちんとした会社」。そんなものをみんな本当に望むのか。そんな吉本になってしまったら、横山やすしのような芸人は、もう二度と現れなくなる。


「彼らをちゃんとさせる」のでなく、「ちゃんとした場所には、もともとちゃんとした素性の人を置く」。そのほうが、真っ当な方向性のように私には思えるのだ。芸人の主戦場はあくまでもお笑いの場。お堅い番組のMCなどではない。笑いにさえその腕を見せるなら、その他の私生活は、不倫でも博打でも“自己責任”で自由にすればいい。やりすぎた悪さをしてしまったら、警察に面倒を見てもらう。妙にモラルを語る“いい子の芸人”より、私にはダメ人間の芸人のほうが、親近感がわく。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。