東京歯科大学
名誉教授
奥田 克爾氏


 ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、口腔トラブルの原因「バイオフィルム」のプレスセミナーを開催した。講師は東京歯科大学の奥田克爾名誉教授で、歯周病の原因から予防法まで幅広く演述した。


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 有史以来、罹患率の一番高い疾患が歯周病である。かのヒポクラテスも重要な疾患として指摘している。このことはギネスブックにも記載されている。痛くも痒くもなく深く静かに進行して、気がついた時は手遅れということがある。歯のぐらぐら、ひどい口臭、歯肉からの出欠などが明らかになった時は、健康破綻にまっしぐらということになる。


 バイオフィルムとは何か。バイオは生物、フィルムは層状ということだが、この層状になるのが、微生物が集団となる「ぬるぬる」のことである。広く自然界をみると、微生物が何かにへばりついて集団になっている状態がままある。たとえば下水管を詰まらせるぬるぬる、風呂場のぬるぬる(浴槽の中も壁のカビも)、手入れの悪い入れ歯のぬるぬる。細菌は単独では居座ることができない。そこで棲みつくときはバイオフィルム集団化することが運命づけられているのである。その際に必要なのは糖類である。ねばねば基質は糖衣をまとって糊状物質となることにある。ぬるぬるとした多糖体なのである。


 院内感染や日和見感染症を起こす原因になるのがバイオフィルムである。ブドウ球菌、セラチア菌(点滴液や医療器具)、レジオネラ菌(24時間風呂や加湿器)、緑濃菌、大腸菌、カンジダ(カビの仲間)等々である。これらの細菌は口腔内を巣窟としている。清潔な口腔には一〇〇億以下の細菌数、清掃の悪い口腔には一〇〇〇億以上の細菌数があり、病気のある場合や清掃のできない状態にある場合には、なんと一兆を超える細菌数があるといわれる。


 デンタルプラークは五〇〇種類以上存在している。そして互いにコミュニケーションをとり、一度足場をつくったら、生涯そこに居続けようとする。単細胞だからといって甘くみることはできない。細菌性フェロモンを出して、身体のストレスで弱くなった所などをいち早くキャッチできる能力を持っている。唾液には抗菌作用があるが、一方で口腔細菌の栄養源ともなっている。またバイオフィルムには、自然免疫も獲得免疫もまったく無力である。消毒薬にも抵抗性があり、効果があるのは非イオン性の抗菌剤である。


 歯周病は、メタボリックシンドロームとも密接につながっている。史上最大の暗殺者は口腔内のバイオフィルム細菌集団であるといっても過言ではない。原因がわからない病気がみつかったら、口の病気を疑えとまでいわれるようになってきた。インフルエンザウイルスも含めて、歯磨きの励行と抗菌性洗口剤の使用で高齢者社会を乗りきっていってほしい。(寿)