大分大学医学部
整形外科学教授
津村 弘氏


 日本整形外科学会(岩本幸英理事長)の記者会見で、大分大学医学部整形外科学の津村弘教授が講演した。演題は「生体力学で捉える変形性ひざ関節症」である。


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 膝関節は大腿骨と脛骨をつないでいる関節で、厚さ2〜4㎜の関節軟骨がクッションの役目をしている。変形性膝関節症は、その関節軟骨がすり減り、膝関節が炎症を起こし、膝の痛みやこわばり、腫れなどの症状を伴いながら次第に変形していく病気である。


 KL(ケルグレン‐ロウレンス)分類というのがある。X線像から変形性関節症(OA)を5段階で評価するものである。


1は正常な状態にくらべて疑いあり、

2は骨棘と呼ばれる骨の変形がみられる、

3は関節軟骨の摩耗を示す関節の隙間の狭小化が顕著になり、

4では関節軟骨が完全につぶれ、大腿骨と脛骨が接触している状態である。


問診、視診、触診に加え、X線所見でKL‐2以上の変形を認めると、変形性膝関節症と診断される。


 変形性関節症(Osteoarthrities : OA)は。頸椎、指骨などの関節にも起こるが、荷重関節とも呼ばれる腰椎、股関節、膝関節は大きなメカニカルストレスを受け続けるため、とりわけ発症しやすく、注意が肝要である。厳密にいうと頸椎や腰椎などの脊髄に起こる同様の変化は、変形性脊椎症と呼ぶ。


 大規模住民調査の結果、40歳以上の男性の43%、女性の62%に膝OAのX線所見がわかっている。これを平成17年度の年齢別人口構成にあてはめてみると、膝OA患者数は2530万人(男性860万人、女性1670万人)と推定される。男性の4分の1、女性の3分の1が膝の痛みを伴うといっているので、約800万人が痛みに悩まされていることになる。発症の原因は①肥満②立つことが多い(1日2時間以上)③歩くことが多い(1日3km以上)④坂道や山道を上ることが多い(1日1時間以上)⑤重いものを持つことが多い(10㎏以上を週1回)などの動作が関連している。


 平成19年の国民生活基礎調査で「要支援」の原因疾患を見ると、関節疾患が20%で第1位である。


以下②老衰17%③脳卒中15%④骨折・転倒13%⑤心臓病7%の順となっている。


 膝OAの治療は、保存療法と手術療法に分かれる。しかし手術は高齢者にとってはリスクを伴うので、近年は保存療法の重要性が高まっている。保存療法では薬物療法、装具療法、運動療法などが行われるが、同時に膝関節を痛める危険因子を把握し、それらを一つひとつ排除することが前提となる。危険因子は全身的要因と局所的要因に分けられる。全身的要因は、遺伝、人種、性別、年齢、女性ホルモン、骨密度、喫煙、内科疾患。局所的要因は肥満、下肢アライメント、下肢筋力、関節動揺性、外傷、日常の活動性、職業、スポーツである。(寿)