広島睡眠クリニック
病院長
岡 靖哲氏


 身体に変調を感じ、「これ病気かも?」と思い、医者に診てもらう——。糖尿病や早期がんのように自覚症状が感じられない病気であればいざ知らず、何らかの症状が出ている場合、多くの人は速やかに病院に行くのが常識だろう。しかし、<むずむず脚症候群>についていえば、現時点でこうした常識は当てはまっていないようだ。

 

 「(自覚症状を感じてから)適切な診断を受けるまで平均3.8年掛かっている」という<むずむず脚症候群>。今回は患者団体である「むずむず脚症候群友の会」発足1周年の記者会見にスポットを当てた。

 

 テーマは「新聞記事を契機に受診に至ったむずむず脚症候群の検討」(広島睡眠クリニック・岡靖哲院長)。

 

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 むずむず脚症候群(Restless legs syndrome:RLS)とは、安静時や夜中に「脚を動かしたくなる」「何か不快な感覚を感じる」「睡眠中、周期的な脚のぴくつきを伴う」ことで、寝つきが悪くなったり、夜中に目を覚ましてしまい眠れなくなるといった症状の“病気”です。

 

 RLSは、基本的に問診で診断できます。


 診断を支持する所見としては、「家族歴がある(一親等では一般の3〜5倍の有病率)」「ドーパミン治療に反応する」「周期性四肢運動を認める(RLS患者の約80%で見られる)」というものがあります。診断が紛らわしいときには、Suggested Immobilization Test(SIT)という検査を行ないます。この検査は、「背中を45度に傾けたベッドに足を伸ばして、1時間安静に座る」という方法で行なわれます。この1時間のあいだで脚に感じた異常感覚を報告してもらうとともに、周期性四肢運動障害の出現頻度を調べる検査です。なお、症状の重症度については、図2のスケールを使って調べます。それぞれの項目を0〜4点で評価し、合計20点以上であれば重症とみなされます。


 こうした症状があるということは15世紀から知られていましたが、“病気”であると認知されたのは比較的最近のことです。実のところ、現在でも症状があるにも関わらず長期間放置されていることが少なくないのです。

 

 有病率を見ると、欧米では5〜10%、アジアでも4%程度となっており、これを日本に当てはめれば少なくとも数百万人の患者がいる計算となる。潜在患者の数を見ると結構メジャーな“病気”であるといえそうだ。しかし、広く国民に認知されているかというといくつもの疑問符が浮かび上がってくるのが現実だ。

 

 近年、メディアなどで取り上げられることで、少しずつ認知度も高まってきていますが、それでも睡眠医療が十分に普及していない地方では、まだまだ知られていません。このため長年に渡って診断されず、治療を受けていない患者さんも数多くいます。こうした地方では新聞やTVなどのメディアの情報を契機として、RLSが認知され受診に至る——というケースが多いのですね。実際、中国新聞(08年3月26日付朝刊)がRLSの記事を掲載した際には、当院にも「この記事にあるようなRLSではないか?」と受診される方が数多く来られました。


 この記事をきっかけにRLSを知り、受診した患者さんを対象に「罹病期間」「受診歴・前医診断」「背景疾患」「薬物治療効果」を調査してみたのですが(調査概要は図3〜7)、その結果を見るとRLS患者の平均罹病期間は約10年に及び、長い人では30年となっていました。


 つまり、平均するとRLSになってから10年ものあいだ診断を受けていなかったのです。当院に来られる前に医療機関を受診した患者さん18例のうち、前医にRLSと診断されたケースは2例に止まり、前医の治療でも睡眠薬の処方が9例、湿布の処方が5例、抗うつ薬の処方が2例、治療薬であるクロナゼパムの処方が2例となっています。

 

 以前、当コーナーで取り上げた睡眠障害セミナー(睡眠薬だけでは治せない? 医者も誤解している睡眠障害のハナシ/2008.12.19)でスリープ&ストレスクリニックの村田健一院長が語っていた通り、むずむず脚症候群による睡眠障害の患者に睡眠薬を投与した場合には、「眠いにも関わらず脚がむずむずするという生き地獄のような状態になってしまう」という。受診した患者の半数に睡眠薬が処方されていたという調査結果は、医師サイドにもRLSが広く認知されていないという実態をあられもなく示したものといえよう。

 

 RLSがなぜ起こるのか? について完全には解明されていません。しかし、鉄分が欠乏している方に症状が多いことや、ほとんどの患者さんでドーパミン系薬剤に反応することが知られています。薬物療法で症状が改善する——しかもごく少量で効果があります。RLSにも効果のあるパーキンソン病治療薬を使う際には、パーキンソン病患者への投与量に比べ1/4程度で効果があります——ため、診断がつけば症状をコントロールできるということです。

 

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 その後、むずむず脚症候群友の会が行なった調査結果が発表され、「適切な診断を受けるまで平均3.8年掛かっている」「6割弱の患者が適切な診断を受けるまでに3軒以上の病院を受診している」「最初から適切な診断を受けられる可能性の高い診療科を受診した患者は22.6%」であることが明らかになった。いずれの結果もRLSという“病気”が、いまだに患者、医師双方に認知されていない実態を浮き彫りにするもので、「より一層の啓発が必要」(むずむず脚症候群友の会・良永信男代表)としている。質疑応答では、この手の記者会見では珍しく活発な質疑が行なわれ、予定時間を10数分オーバー。記者の関心も高かったようだ。

 

 今年中にも承認申請中の医薬品(プラミペキソール)の上市が見込まれているなか、むずむず脚症候群という“病気”と、これを含む睡眠障害の真実を一人でも多くの人に知ってもらいたい——そう感じた記者会見であった。(有)