東北大学・加齢医学研究所
渡辺 彰氏
ファイザー㈱は「飲み方ひとつで変わる治療効果と耐性菌」と題して、プレスセミナーを開催した。講師は東北大学・加齢医学研究所の渡辺彰教授で、抗感染症薬開発研究部門の担当をしている。
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薬物療法では、医師や薬剤師の服薬指示を守ることが大切である。誤った薬の服用は、薬本来の効果が発現しないどころか、症状の悪化や治療の長期化の要因となる。感染症に処方される抗生物質などの抗菌薬の場合、服用を中断することによって感染症の再発、薬剤耐性を持つ耐性菌を発生させることにつながってしまう。処方された抗菌薬は用法・用量を守り、最後まで飲み切ることが重要である。にもかかわらず服用状況の調査結果をみると、あまり好ましくない点が浮き彫りにされている。
抗生物質というのは、土壌の中にいる微生物の産生物質だが、最近では化学的に合成された薬剤もある。そこで広い意味で「抗菌薬」と言い表した方が妥当であろう。抗感染症薬ということになれば、かなり多くの薬が包含される。抗菌薬(抗生物質、合成抗菌薬)、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗結核薬、抗原虫薬、抗寄生虫薬、抗プリオン薬、ワクチンなどである。
耐性菌というと、当該薬剤のあとから出てきたと考えられがちだが、そうではない。なんと人類が出現する前から存在していたのである。抗生物質は、微生物が他の微生物を負かすために作った物質を模倣しただけのものであり、その物質から身を守る「耐性」菌も、自然界には当然のことながら存在する。ペニシリンGが使用されたのは1941年だが、それ以前にペニシリン分解酵素を産生するペニシリンG耐性菌が発見、報告されている。アルプスの氷河から発見された4000年前の凍結遺体(アイスマン)の体内から、抗菌薬耐性菌が発見されている。自然界の土壌中には、抗菌薬を炭素源(栄養源)として生存している数百種類の細菌が存在することが確認されている。
ファイザー社は08年11月30日、インターネットアンケートで47都道府県の20代以上の一般生活者男女9400人に、処方薬の服用に関する意識・実態調査を行った。20代、30代、40代、50代以上の各25人、計200人が対象である。まとめてみると次のようである。
処方薬全般では「きちんと飲めている」と思っている人は多いが、実際の行動が伴っていない。約8割の人が「きちんと服用できている」と思っているが
①飲み忘れは7割以上で、最も多いのは「昼」である。
②全体の6割以上が薬の服用を途中で中断している。
③4人に1人は処方薬の用量を自分の判断で調節している。
④「症状が改善されたから」という理由で服用中断や用量の調節をする人が多い。
抗生物質・抗菌薬では、耐性菌発生のリスクがあるにもかかわらず、正しい服用についての理解が不足している。
①全体の半数以上が抗生物質・抗菌薬の服用中断に伴う耐性菌発生リスクを知らない
②服用を途中でやめた理由は「症状が改善されたから」がもっとも多く82%
③自己判断による服用は耐性菌リスクを高めるにもかかわらず、実際に抗生物質・抗菌薬を余らせた人のうち、4割が「余った分は保存しておき、同じ症状が出たときに再度使う」と誤解している。
抗菌薬療法に対する考え方が、近年になって変化している。これまでは安全性を重視して低用量となり、長期間投与になることが多かった。これにより低血中濃度が続き、服薬不順守を増大させる原因となった。最近の考え方は有効性を重視し、耐性菌対策を重点に置くようになった。つまり高用量・短期間投与である。初回の投与量を増量することで、早期に有効血中濃度へ到達させる。有効率の向上が耐性菌の抑制につながる。少数回投与や単回投与になることで、服薬コンプライアンスの向上につながるわけである。
なお米国のFDA(食品医薬品局)は04年、抗菌薬のラベルに次の文章を明記するよう求めている。
服薬を抜いたり、服薬を完了しなかったりした場合には、次のことが起こる可能性を、医師が患者に伝えることができるように、ラベルしなければならない。①その治療の有効性が低下する。②原因菌の薬剤耐性化が起こりやすく、今の治療だけではなく、その次に投与される他の抗菌薬も効かなくなる可能性が大きくなる。(寿)