JR仙台病院
院長
市来正隆 氏


「プラビックス錠(クロピドグレル)」に末梢動脈疾患の適応が追加されたことを機に、サノフィが動脈硬化症に関する記者説明会を開催。JR仙台病院の市来正隆院長が「脚にも来る動脈硬化症(ATIS)〜血管は生活習慣の履歴書」の演題で講演した。

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 私がJR仙台病院の血管診療センターで30年間患者さんを見てきた結果、血管は「生活習慣の履歴書」だと確信を持つようになった。


 動脈壁に酸化した脂質などが沈着してプラーク(病巣)を形成し、動脈の内腔が狭くなる病態を「アテローム性動脈硬化症」と呼ぶ。従来は、この動脈硬化の進展に伴い、プラークが増大し、血管が狭窄して、血流障害を招くことで、脳梗塞や心筋梗塞などの虚血性疾患につながると考えられていた。しかし近年、この考え方が変わりつつある。プラークがまだ小さく、血管の狭窄度が低い段階でも、プラークが破たんした際に形成される血栓が、さまざまな虚血性疾患を引き起こすことが明らかになってきた。


 脳動脈や冠動脈に限らず、プラークの破たんで出来た血栓が引き金となる病態は、手足などの末梢動脈にも共通して見られる。この病態、もしくは病態に起因する疾患群を「アテローム血栓症」、すなわちATIS(読み:エイティス、AtheroThrombosIS)と一括してとらえるようになった。「アテローム」は「粥」を意味する。プラークを肉眼で見ると白色や黄色の粥のように見えるからだ。


 アテローム血栓症に起因する疾患は


・脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)。
・心筋梗塞、狭心症(安定狭心症、不安定狭心症)。
・末梢動脈疾患(PAD)、間歇性跛行、安静時疼痛、壊疽、壊死。


 といったものが挙げられる。なお、WHO加盟国(193ヵ国)における死因原因をランキングすると


① アテローム血栓症 30.1%
② 感染症 18.2%
③ 癌 13.6%
④ 事故死 9.0%
⑤ 肺疾患 7.4%
⑥ エイズ 3.1%


 となる。日本では、癌と動脈硬化症が30%ずつで拮抗している。


 ベッドで横になり、足と腕の血圧を同時に測定する検査をABIという。服を着たまま5分間受けるだけで、痛みもなく簡単だ。


 末梢動脈疾患(PAD)は問診とABI検査で早期に発見できるが、ATISの一部分症であり、「たかだか足の病気」と思ってはいけない。ABI検査による集団検診でPADを啓蒙することは有用だ。しかし、効率的にPADを検出するためには、目標を「ハイリスク集団」に定めるべきだ。ATISイベントを抑制し、生命予後を改善することが、PAD治療において第一に優先される。クロピドグレル(プラビックス)は、PAD患者にとって、ATISイベントを抑制するのに適したベース薬といえる。(寿)