理化学研究所 脳科学総合研究センター
精神疾患動態研究チームリーダー
加藤忠史氏


 日本医学ジャーナリスト協会の月例会で現化学研究所脳科学総合研究センターの精神疾患動態研究チームリーダーの加藤忠史先生が講演した。演題は「うつ病の根本的治療法の開発に向けんて」。



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「新型うつ」が問題となっているが、私自身は診断の経験がなく、また、診断された人も見たことがない。なぜこのようなことが起こっているのか。それは、コンセンサス(複数の人による合意)が得られていないからだ。「うつ」に関する診断分類は一応、いくつかの項目に分けられているが、いずれも「ハテな?」といった状態。そのため、日本うつ病学会では用語検討委員会を設置し、ガイドラインの作成にとりかかっている。

 うつ病の原因が解明されてこなかった理由はなにか。精神病の原因が脳にあり、うつ病の原因は「こころ」や「社会」である、と考えられてきたからだ。うつ病を「症状」としてではなく、脳の「病態」に基づいて研究しなければならない。症状だけで、悩み(不適応)か病気(うつ病)かを鑑別するのは容易ではない。脳が健康だからといって、精神的に「正常」との診断も困難だ。

 この問題を克服するには、検査方法の開発が必要だ。現状では、治療(投薬)が効き始めるのに2週間、治るのに三ヵ月かかる。まさに対象療法でしかない。そのためにも、血液検査や脳画像診断の方法を確立し、即効的かつ根本的な治療法を見つけ出す必要がある。脳科学が進歩し、現在では解明の機運も高まっているため、精神医学や生物学などが協調しあいながら、取り組むことが喫緊の課題となっている。


 うつ病は単一の原因で発症するものではない。次の6種類に分類されている。

内因性うつ病
①危険因子はメランコリー、親和型性格
②プラセボが無効。制止、日内変動。罪責感。

非定型うつ病
①虐待の既往。
②精神療法も有効、不安、パーソナリティ障害。

血管性うつ病
①潜在性脳梗塞。
②難治、認知障害、抗うつ薬副作用強い。

認知症の前駆症状としてのうつ病
①うつが認知症の危険因子。
②軽度認知障害を伴う認知症に進展。

季節性うつ病
①冬季、高緯度地方。
②過眠・過食、光療法が有効。

双極スペクトラムうつ病
①双極性障害の遺伝負因。
②抗うつ薬で躁転、双極性に移行。

 うつ病とセロトニンとの相関関係については、研究の余地がまだ残されている。しかしうつ病の研究者はあまりにも少ない。認証症の解明はかなり進んでいるため、「脳の病気」であることを踏まえて統一的に研究する必要がある。患者、家族、会社など実際に困っている人たちも取り込むことで、コンソーシアム(連合)として進めていきたい。(寿)