東京大学大学院医学研究科
脳神経医学専攻 教授
岩坪威 氏


 GEヘルスケア・ジャパンが「世界のアルツハイマー病 最前線」をテーマにセミナーを開催し、東京大学大学院の岩坪威教授が講演した。岩坪氏の講演要旨は次のとおり。


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 アルツハイマー病治療研究の最新動向と「ADNI」について説明する。ADNIのADは「Alzheimer's Disease」、NIは「Neuroimaging Initiative」の略で、それぞれ、アルツハイマー病、脳画像診断における先導的な研究、を意味している。私はJ(日本)-ADNIで主任研究者を務めている。

 高齢化社会の到来で、世界的にアルツハイマー病患者が増えている。特に先進国では「急増」という表現がぴったり当てはまる。開発途上国においては、高齢者の半数が患者とされている。


 患者の海馬の病理組織像から、アルツハイマー病になる3つの原因が判明している。


① 神経細胞の脱落
② 細胞死への神経原線維の変化(タウ蛋白質)の関与
③ 老人斑(βアミロイド)の関与


 治療標的と臨床試験の現状をひと言で表すと「茨の道」。現在、80歳代の認知症(アルツハイマー病)について治験が行われている。しかし症状の兆しは15〜20年前に出始める。軽度の認知障害が発症した後、認知症へと進行する。この時期には抗アミロイド療法などがもっとも有効と考えられている。なるべく早期に治療に着手すればいいのだが、バイオマーカーが必須となる。

 また、MRIを使った精密な脳容積の測定と、PET(陽電子放射断層撮影)による脳代謝・アミロイド蓄積の評価も必要だ。正常状態・軽度障害・アルツハイマー病への縦断的な追跡を行わなければならない。そして、予防・患者選択を「早期診断マーカー」の、薬効評価を「進行度マーカー」の指標とする必要がある。また、ADNIによる評価法を確立し、アルツハイマー病の根本治療薬を見つけ、臨床治験の実現を目指さなければならない。

 米国、EU、オーストラリア、日本、韓国で、ADNIのネットワークが進行しており、わが国では2008年からの5年間で38臨床施設(600例)が検討している。対象患者の年齢層は60〜84歳で、その内訳は、早期AD150人・軽度障害300人・健常者150人となっている。


 米国ではすでに予防治験が開始されている。日本はまだ取り掛かっていないが、健康時から高血圧・コレステロールをコントロールして動脈硬化、心筋・脳梗塞を予防するのと同様に、アミロイドなどを抑えてアルツハイマーの発症を予防しようとする発想に基づいた、プレクリニカル(前臨床)期の先制医療を目指していきたい。(寿)