名古屋市立大学大学院
心臓・腎高血圧内科学助教授
木村 玄次郎氏


 塩を減らそうプロジェクト主催のメディア勉強会で、名古屋市立大学大学院の木村玄次郎助教授(心臓・腎高血圧内科学)が講演した。演題は「食塩と高血圧」。食塩制限の重要性を再考する、という副題がついている。


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 多数の民族間でみても、日本人のように単一の民族内でみても、食塩の摂取量と血圧との間には「正の相関」が存在する。ブラジルのヤノマモ族は、食塩をほとんど摂取しないということで知られているが、高血圧がまったく存在しないばかりか、血圧が加齢と共に上昇するといった現象すら認められない。ところが一旦塩文明に触れると、現代文明社会と同様に高血圧が出現するし、血圧も加齢と共に上昇するようになってしまう。食塩と高血圧の密接な関係は、このような疫学的事実からも明らかである。


 新生児に食塩を制限するという実験が行われた。生後6カ月間だけ食塩摂取量を約30%制限したところ、非制限集団にくらべて血圧が経時的に低下し、6カ月後には縮期血圧にして2.1mmHg低下していた。その後両群ともに普通食を摂取させたが、15歳時の血圧は、食塩制限した群は集団で低下し続けていた。このことから、新生児から高齢者にいたる全国民を対象に、長期間にわたって食塩制限することがいかに大事かが判明した。長期間食塩を制限することの安全性についても、もちろん問題は認められていない。幼少児から食塩の制限を習慣づけ、継続できれば本質的に高血圧を予防することができると考えられる。

 

 最近の高血圧治療ガイドラインは、食塩摂取量を一日6g未満にするよう推奨している。この閾値以下では、食塩摂取量と血圧値との相関がなく、高血圧の頻度が低いとの疫学的エビデンスに基づいてのことである。

 

 しかし食塩の大部分は加工食品の中に含まれている。家庭で調理に使う醤油や味噌に含まれている食塩は、一日摂取量の20%程度である。しかし、加工食品を持ち込むと一気に塩分が増加する。個人レベルでの努力も大切だが、厚生労働省と食品業界がタイアップして、減塩作戦に取り組むことが大切である。

 

 食塩の含量を10〜15%減らしても、味覚にはまったく影響がないことが知られている。薄味に慣れた頃に、さらに食塩含量を減らすということを繰り返していけば、10年以内に国民の平均食塩摂取量を一日6g未満にすることは、そう難しいことではない。

 

 現代では、保存とか調理のために食塩は必須ではなくなっている。厚生労働省が食品業界を指導して、食塩制限を推進することは、おそらく現在考え得るもっとも達成可能な健康施策になると期待される。この施策は、イギリスではすでに進行中であり、わが国でも早期に実施に移すべきである。(寿)