膨大な読書量や歴史への洞察力から、昨今はこれらの分野での著作が相次いでいる出口治明氏・ライフネット生命保険会長兼CEOだが、やっぱり真価が発揮されるのは、本業の生命保険関連のテーマだろう。


『生命保険とのつき合い方』は、生命保険の世界を知り尽くした著者が、一般の読者に向けて、保険の基本を分かりやすくかつ、コンパクトに解説した1冊だ。


 教科書的に作り込まれている部分もあるのだが、〈お金持ちは何もしなくてもいい〉〈保険は本質的にふつうの市民(中間層)のための仕組みであり、商品〉と本質を突く話が随所に登場する。


 最近はオフィスへの出入りが厳しくなったこともあって、昔ほど猛烈なセールスをしてくる“生保のオバチャン”は減った(昔はオバチャン主催の合コンとかよくあったなぁ)。それでもいろんなしがらみで、保険外交員のセールスを受けることがあって、あれやこれやの病気のリスクを並べられると、「もしかして保険に入らないとまずいのかな」という気になるものだ(酒、肥満、不規則な生活……など、日頃の不摂生もある)。


 独身時代は保険(貯蓄や投資も)のことなどまるで気にならかったが、家族ができると “万が一”も多少は心配だ。


 じゃあ、どんな保険にどれくらい入るの? という時、〈初めにセーフティネットを説明しない保険セールスは、信用しないことに決めています〉との言葉どおり、著者はまず考慮すべきは国の社会保障制度だという。そこで足りない分を、保険で補っていくのが基本中の基本だ。著者はこのスタンスで、日本の公的セーフティネットを解説した上で、必要な保険を考えていく。


 家族構成や年齢によって変わる、必要な保険の解説も実践的だ。90年代後半のブームで、ファイナンシャルプランナーの資格を取っている金融マンはずいぶん増えた気がするけれど、保険に限らず、ライフステージや家族構成、年収、資産背景などを考慮した提案をしてくれる金融マンに会ったことがない(自分の年収や資産が少ないからか)。 


■医療保険の立ち位置が変わる!?


 本書は、生命保険全般を扱うが、普段、医療や医薬の世界を取材するという仕事柄、やはり医療関連の保険が気になるところ。


 今、〈「医療保険」は生命保険会社がしのぎを削っている代表的な商品の一つ〉だとか。年齢のせいかもしれないけど、個人的にも最近、医療保険への加入を勧められることが多くなった。


 ただ、日本では国民皆保険制度が採られている上、自己負担の医療費が大きくなった場合、「高額療養費制度」で負担が軽減される。正直、民間の医療保険はいらないんじゃないかなと考えていたが、本書を読んで改めてその思いを強くした(著者はそう書いてないし、著者の趣旨とは違うんだろうけど)。


 いろいろ言われるけれど、日本の健康保険制度は総じてよくできている。勤め先によっては、より手厚い給付がある健康保険組合に加入している人もいるだろう。


 がん保険や、がん、心筋梗塞、脳卒中のいわゆる“3大疾病”を対象とする特定疾病保障保険に加入している(したい)人は、本書の注意事項が役に立つ。例えば、保険の世界で「がん」が何を指すか。医学的な定義と違っているケースもあり、上皮内新生物を保障に含めるか否かなど、保障範囲の違いが保険料に跳ね返ってくるという。


 いらない……とは書いてみたものの、いずれ、財政難や米国からのプレッシャーで公的健康保険制度が改悪・制限されたり、公的制度ではまかなえないような高額医療が登場したりする可能性は十分にある。そうなれば(なってほしくはないが)、民間医療保険の存在感がぐっと増してくるはずだ。


 将来の改訂版では、医療保険の関連ページが分厚くなっているかもしれない。(鎌) 


<参考データ>

『生命保険とのつき合い方』

出口治明 著(岩波新書 780円+税)