東京医科歯科大学
消化器内科教授
渡辺 守氏


 アボット・ジャパン㈱とエーザイ㈱のメディアセミナーで、東京医科歯科大学の渡辺守教授(消化器内科)が講演した。演題は「クローン病治療、新時代の幕開け」。渡辺先生は厚生労働省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」の班長でもある。


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 大腸の病気は3種類ある。がん・ポリープができる「腫瘍性腸疾患」、キズ(潰瘍)・ただれ(炎症)を起こす「炎症性腸疾患」、動きの異常・痛みの過敏を起こす「機能性腸疾患」である。これらの疾患はいずれも増加傾向にある。

 炎症性腸疾患は下痢、腹痛、血便の症状が出る。原因が明らかな急性の腸炎は

①細菌(大腸菌、キャンピロバクターなど)
②ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)
③薬(抗生物質、痛み止め、風邪薬、アスピリンなど)。

 最近増えている。原因が不明の慢性腸炎は、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸型ベーチェット病などである。

 潰瘍性大腸炎は、大腸の表面にただれ(炎症)ができて、時に浅いキズ(潰瘍)ができる。クローン病は口から肛門までの消化管のどの部位にも深いキズ(潰瘍)、ただれ(炎症)が起こる。いずれも慢性で、原因が不明で、根本的な治療法がない。したがって厚生労働省の難治性疾患、つまり「難病」に指定されている。潰瘍性大腸炎は難病の中で一番患者数が多く、現在14万人と推計されている。クローン病は3万5千人と推計されている。

 はじめてクローン病と診断されるのは20〜30歳代が多い。男性に多い。特別な症状が出るわけではないので、どうしても発見というか診断が遅れてしまう。したがって見つかった時にはかなり病気が進行してしまっている。内視鏡所見では縦走潰瘍、狭窄、敷石状などとにかくひどい症状となっている。若くして寛解と再発をくり返し、歳月の経過とともに悪化していく。腸管が狭くなると瘻孔(穴が開いて逃げ道を作る)などの器質的な合併症を起こし、手術をすることになるが、半数以上の患者さんは再手術が必要となる。
患者さんの多くは

①フルタイムの仕事につけない
②病気で退職せざるを得なかった
③職場で不適切な言動を受ける
④一日中トイレを気にしている
⑤友人・恋人との親密な関係を築けない

 など、社会生活に制限がある病気—との認識を持っている。これまでは成分栄養療法しかなかったが、免疫の過剰反応による「局所炎症」であることが判明、新しい治療法として「抗体製剤」(蛋白質を中和する)の新薬が登場した。レミケード、ヒュミラ、タイサブリ、シムジアの4種類である。89%という高い有効性、7日以内に効くという即効性、1回の投与で8週間効いている持続性などで、クローン病治療に明るい展望が持てるようになった。(寿)