大阪精神医学研究所・新阿武山病院
岡村武彦病院長


 大塚製薬は「統合失調症」をテーマにプレスセミナーを開いてきている。このほど「競技スポーツから統合失調症の治療を考える」と題して大阪精神医学研究所・新阿武山病院長の岡村武彦先生が演述した。岡村先生は大阪サッカー協会のスポーツ医学委員でもある。

   

 

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 日本スポーツ精神医学会が03年に発足した。精神医学のスポーツ面への臨床応用としては、①アスリートがスポーツの特異性から抱える精神医学的問題の抽出・予防・治療②精神疾患を持った人がスポーツを行うことによって得られる広い意味での治療効果の解明——という2つの面がある。さらにはスポーツと脳機能の基礎的研究、という課題もある。

 

統合失調症患者は、幻覚や妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲の低下などの陰性症状の2つが特徴的な症状といわれている。こうした症状のために、仕事、対人関係、自己管理などの水準が低下し、日常生活における機能が著しく障害されている。もともと平衡機能の障害や振戦(ふるえ)などの運動機能障害があり、それに加えて治療に用いられる抗精神病薬による副作用(錐体外路症状)や、多剤併用処方で微細な運動機能が悪い影響を受けることになる。

 

統合失調症治療の目標は、本人の回復促進と自己実現である。抗精神病薬の有効性だけでなく、その安全性を確保し、また服用する本人が、治療に積極的に取り組むような治療関係をつくることが、よりよい治療成果をもたらすことになる。私の病院でも02年から治療アルゴリズムを採り入れて、新しい抗精神病薬で少量、単剤化に取り組んでいる。また統合失調症の患者さんは、メタボリックシンドロームの有病率が高い。その原因の一つは、いくつかの抗精神病薬と指摘されており、なるべく影響の少ない薬剤を、なるべく少量使うよう心がけている。

 

さらに生活の質を高めるために、競技スポーツを採用している。精神障害者を対象として正式に国体種目となったのはバレーボールである。

その練習で

 

①毎日の生活にメリハリがついた


②集中力がついた


③人間関係作りに役立つ

 


 など肯定的な意見が出されている。服薬の動機づけにもなっているといわれる。患者さんの調査では、取り組みたいスポーツとして卓球、ソフトボール、バドミントン、野球、テニス、サッカーなど17種目が挙がっている。サッカーのルールをやわらかくしたフットサルが人気である。ゴールキーパーを含めて5人という少人数で行うことができ、なによりも接触プレーが禁止されているので安全であり、女性も参加することができる。

 

スポーツ競技は「勝敗」がつく。これがどう影響するかがまだ判然としていないが、何かに向かって一生懸命取り組む姿勢が、大事だと考える。


(寿)