常にポジティブで力強くいたい——。東京・渋谷のUPLINKで今月10日より公開となる映画、「ミラクルツインズ」のプロモーションのため来日した、アナベル・ステンツェルさんとイサベル・ステンツェルさんの双子姉妹は、力強くこう語る。汗や涙などを排出する外分泌腺に異常をきたし、肺感染症などを併発させる嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう、Cystic Fibrosis、以下CF)。この難病をわずらいながらも懸命に生きる2人を描く本作品は、CF患者への理解を呼びかけると同時に、患者の生きる誇りや自尊心の育成に家族や友人の存在が深く寄与していることも示唆する。CFが引き起こす感染症を解決するためには臓器移植が必要だが、日本は他の先進国と比べて施行条件がいまだ厳しい。そのような観点から、移植医療の必要性も改めて考えるきっかけを「ミラクルツインズ」は与えてくれる。

 先月10日。都内で一足先に行われた試写会では、難病という重いテーマを扱った作品にもかかわらず、約320名が詰めかけ、「会場前に大行列ができ、開場時間を早めたほど」(UPLINKスタッフ・村井卓実さん)の注目を浴びた。

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 1972年。ステンツェル姉妹はカリフォルニア州ロサンゼルスで、心理学者になるべく渡米した母の肇子(はつこ)さんと、ドイツ人の夫との間に生まれた。しかし、生後わずか3日でCFを発症。肇子さんは大きく動揺したが、我が子を死なせるわけにはいかないと、自らに力強く宣言した。「私に代わる心理学者はいくらでもいる。でも、この子たちの母親は私しかいない」。それ以降、肇子さんは2人に対して、希望を捨てずポジティブに生きれば、「努力はかならず報われる」と説き続けた。しかし、2人が自分自身に対して胸を張って生きようと思うことは、決して簡単なものではなかった。

 転機が訪れたのは11歳の時。南カリフォルニアで開催されたCF患者のキャンプ(合宿)に参加したことだった。キャンプのメンバー約100人のうち、患者は約60人。年齢も5歳から40歳までと幅広かった。そんな彼らと毎晩、対話を重ねた。治療技術の進歩により、現在では平均寿命が30年以上といわれるCFだが、かつては6歳から7歳までと短かった。しかし、キャンプで2人が目にしたのは健常者と同じように仕事や結婚をし、前向きに生きている大人たちの姿だった。「生まれて初めて、自分のことを“ノーマル”と感じられたし、私たちにも(仕事や結婚が)できるんだ」。キャンプ最終日には参加者同士、「来年もまた会おう」と笑顔で声を掛け合った。キャンプへの参加を通じて得られた自尊心は、2人にとって今でも生きようとする力の源となっている。

 その後、1994年に2人そろって名門スタンフォード大学を卒業し、香川県高松市で1年間、英語教師として働いた。帰国したのち、カリフォルニア大学バークレー校にて、アナベルさんは遺伝カウンセリングの、イサベルさんは社会福祉・公衆衛生で修士課程の学位を取得した。1997年より遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカーとして、スタンフォード大学病院で働き始めた。また、2000年から2007年にかけて、両肺の臓器移植を共に行い、無事成功し、移植者スポーツ大会にスイミング選手として出場できるまでに回復した。


 2人は現在、体調をケアしながら月曜から金曜までの5日間、パートタイマーとして働く。自らが診察を行う際に、もっとも大事にしているのは患者の気持ち。しかし、自らが難病患者であることは明かしていないという。専門性の高い仕事に就いているという、「プロとしての意識」があるからだ。


 仕事のかたわら週末を利用して、年20回ほど米国内で講演し、自らの体験談を話している。カリフォルニア州に本社を構える製薬企業のジェネンテックから20年前に依頼されたことがきっかけとなった。対象はおもに製薬企業の営業・研究職社員。自社の製品がどう使われ、どう役に立っているのか、患者自らが語ることで、「病気と、患者の“顔”を一致させてもらえる」よう務めている。

 

 2人は訴える。「まずは患者を知ってください」。そのためにもっとも重要なのが、患者に寄り添ったヒアリングと考える。くすりの色や味など、服用に際して「患者側に立った努力をして欲しい」。そのほかにも、患者とその家族が参加するカンファレンスや、オーファンドラッグ(希少疾患用医薬品)に対する取り組みの強化も指摘する。


 来日は今回が8回目。映画を通してさまざまな人々と触れ合ったことで、これまで「ツアーリスト(旅行者)」として訪れていた日本をより身近に感じることができた。来日前、アナベルさんの体調はけっして良いといえるものではなかったが、CFに対する理解を広めたいという情熱が、彼女を後押しした。


 これまでの人生を「まるでジェットコースターに乗っているようだった」と振り返る。しかし、QOL(生活の質)は大きく向上したと感じている。私たちは常にポジティブに生きていたいー。両親や友人からもらった多くの力をバネに、2人はこれからも前に向かって歩んでいく。


前向きに生きることは「力」と語るアナベルさん、肇子さん、イサベルさん(左から)

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『ミラクルツインズ』

今月10日(土)より、渋谷アップリンクほか全国順次公開
©Twin Triumph Productions, LLC


映画公式サイト
http://www.uplink.co.jp/miracletwins/


関連リンク

膵嚢胞線維症の治療環境を実現する会
http://www.mgu.ac.jp/cf/

嚢胞性線維症患者と家族の会
http://jcfn.jimdo.com/