大村智、梶田隆章両氏のノーベル賞受賞、ラグビーW杯における日本代表の歴史的活躍、そして巨人軍選手による野球賭博の発覚……。今週は、そんな注目度の高いニュースが相次いだこともあり、いまひとつ話題性の薄い第3次安倍内閣の発足を特集にまとめたのは文春と新潮だけだった。


 内閣改造にあたっての恒例行事、新閣僚の“粗探し”である。政権の側も、“立ち上がりからの失点”を防ぐために、事前に閣僚候補者の“身体検査”をするのだが、脛にまったく傷のない政治家はやはり、多くはないようだ。


 というわけで、今回、俎上に上がったのは、復興・原発事故再生担当大臣となった高木毅氏と、農水相に選ばれた森山裕氏の2人。新潮がそれぞれに4ページと3ページの誌面を割き、両人の“古傷”を暴いている。


 新閣僚にまつわる過去の騒動では、不適切な事務所費の問題が、大臣の顔に貼られた絆創膏をめぐる“謎解き”へと変質した摩訶不思議な事例や、公選法に触れかねない名前入りうちわを配布した問題が国会での珍問答で注目されたケースなど、一種ばかばかしい展開も少なくない。今回の高木新大臣にまつわる報道も、地元敦賀市で昔から噂されてきた「下着ドロ事件」という、やはり苦笑を禁じ得ないエピソードだ。


 記事によれば氏は、国会議員になる以前、とある銀行員の女性を気に入って留守宅に侵入、騒ぎを起こしたという。過去、何度となく怪文書が出回って、地元では有名な話なのだとか。事件発覚時、高木氏の父親が現職の市長だったこともあり、刑事事件にはならずに終わった話だが、新潮は被害者の親族から証言を得た。一般紙では扱われない種類の話だが、記事が事実なら、大臣としての政治的資質を問う以前に、人としてどうなのか、と疑念が湧く。


 森山農水相の問題も、地元鹿児島では有名で、鹿児島市議会議長だった27年前、暴力団事務所で暴力事件があった際、当人が事務所に居合わせた、という話である。森山氏と近い経済人の弟が借金のトラブルを抱えていて、暴力団が間に入って債権者に「ヤキを入れた事件」だったという。森山氏は同時刻に事務所にいたことは認めるが、事件とは無関係、という弁明で通している。


 新潮は自民党の人材不足を指摘して「この2人が外れても、新たな落第大臣が壇上するだけ」という嘆き節で記事を締めくくっている。しかし、いくら“若き日の古傷”と言っても、絆創膏やうちわで辞職した人がいる前例を思えば、今回のほうが「こんな人で本当に大丈夫か」と、人間性を疑わせる事例である。かといって、こんなことで野党に「徹底追及」を求める気にもなれず、結局は当人に「人並みの羞恥心を持っていてほしい」と、政治家にはなかなか望み得ない期待をするしかない。


 一方で、ノーベル賞やラグビーについての報道は、手放しで喜べる数少ない話題だ。ただ、新潮の『奮励努力を重ねても「ノーベル賞」と縁遠い「中国」「韓国」にはワケがある!』という関連記事、あるいは現代の『ノーベル賞W受賞! 日本人はやっぱりすごい』という“今ふう”のタイトルの付け方には、毎度のことながら興醒めする。伝統的に冷静な内省を美徳とする日本人としては、そろそろこの手のはしゃぎ方に関しても、羞恥心を覚えるようになったほうがいい。


 野球賭博事件では、巨人・福田聡志投手に賭博を持ちかけた人物の告白を文春がスクープ。ポストが関連記事として特集した46年前の「黒い霧事件」をめぐる舞台裏の物語も興味深い。黒い霧事件は、謎の失踪を遂げた西鉄ライオンズ(当時)の永易将之投手にポストが接触し、その重い口を開かせたことで明るみに出た。今回の特集は、まるで映画か小説のような当時の興奮を生々しく伝えている。 


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三山喬(みやまたかし)  1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。