慶應義塾大学病院
血液内科教授
岡本真一郎氏
セルジーン㈱のプレスセミナーで、慶應義塾大学病院血液内科の岡本真一郎教授が講演した。演題は「多発性骨髄腫治療の新たな展開——長期の疾患コントロールを目指して」であった。
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多発性骨髄腫は、高齢者に多く見られる血液がんの1つである。現在日本では1万1千人程度の方が罹患しており、年間約3千9百人が亡くなっている(厚生労働省の人口動態統計)。
多種類の免疫グロブリンを産生する「形質細胞」と呼ばれるものがある。長期間にわたって生存し続けるよう運命づけられた細胞である。あらかじめ細胞死抑制に作用する遺伝子群の発現を、高いレベルで維持している細胞でもある。大切な存在の細胞なのだが、勝手に増殖し始めると、手に負えなくなる。形質細胞の腫瘍性増殖である。
その結果
①破骨細胞の活性化
②骨髄での増殖
③M蛋白の増加
という困った事態が起こる。
①破骨細胞が活性化するということは、骨融解が進み、くしゃみをしたり尻餅をついたりしただけで骨が折れてしまうという病的骨折が増え、高カルシウム血症(腎臓障害)が起こるという事態を招く。
②骨髄での増殖は、血液をつくるスペースがなくなって貧血となり、感染症にかかりやすくなり、出血しやすくなるということになる。
③M蛋白の増加は、血液がドロドロとなり、臓器に沈着してしまうので、臓器障害、とくに腎臓が障害を起こし、過粘調度症候群をひき起こす。
年齢別にみると、40歳未満ではまずみられないが、50歳を過ぎると男女とも急増し、70歳代がピークとなっている。高齢者はいろいろな病気を持っているので、非常に治療がしにくいといえる。
臨床像を見ると、実に多様である。
①突然の病的骨折による激痛、高カルシウム血症による意識障害で救急外来に搬送される。
②自覚症状として、腰・背部痛、全身倦怠感が多く認められ、高齢者の不定愁訴であろうと、見逃されてしまうことがある。
③無症状で、健康診断で総蛋白高値、ZTT高値、蛋白分画の異常で発見される。
治療方法は、造血幹細胞移植が適応か非適応化にわかれる。後者は年齢が65歳以上の場合などである。
また骨髄腫あるいはその治療によって生じる病態の予防・治療(支持療法)では
①貧血に対する輸血、エリスロポエチンの投与(カルシウムの値を下げる)
②骨病変予防としてのビスフォスフォネートの投与(破骨細胞の働きを抑制する)などがある。
メルファランとプレドニンの投与が標準的治療とされている。このほかにも化学療法剤のいろんな組み合わせも行われている。新規薬剤もいろいろと試みられている。サリドマイド、レナリドマイド、ポルチゾミドなどである。「まとめ」としていえることは、次のようである。
・従来の治療に新規薬剤を組み入れることにより、骨髄腫の治療成績は改善し、骨髄腫は慢性疾患となりつつある。
・さまざまな併用療法、そして治療スケジュールが検討されているが、現時点でこれらの優劣は明らかでない。現在進行中の大規模臨床試験の長期の治療成績の評価によって、今後明らかにされることが期待される。
・現時点では、患者の年齢、骨髄腫以外の合併症、および骨髄腫の状態によって治療を選択することが現実的である。
・骨髄腫の根治には、骨髄腫幹細胞を標的とした治療の開発が必要である。
(寿)