星槎大学共生科学部
教授
細田満和子氏


 星槎大学共生科学部の細田満和子教授が日本医学ジャーナリスト協会の月例会で、「ボストンにおけるヘルスケア・トピックと日本人の示唆」と題した講演を行なった。細田教授は東京大学大学院人文社会系研究科博士課程を修了したのち、米国コロンビア・ハーバード両大学で公衆衛生学を学んだことから、医療分野の造詣が深いことで知られている。講演要旨は以下のとおり。

◇◇◇

 私はこれまでの社会学の枠組みにとらわれず、チーム医療の問題、脳死や臓器移植・重症障害新生児などに関する生命倫理の問題、患者会の活動やパブリック・メンタルヘルスの問題など、さまざまなことに取り組んできた。

 今回の大統領選挙で敗れた共和党のミット・ロムニー氏が州知事だった2007年7月1日、米国マサチューセッツ州でヘルスケア改革法が施行された。州民皆保険や低所得者への扶助に対して、もっとも力を入れた内容になった。保険に加入していないと罰金を課せられ、かつ、保険金より罰金の金額を高く設定したことで、2005年時点で55万人だった無保険者が、2008年には11万人へ大きく減少した。

 2010年3月23日には、オバマ大統領の尽力もあり、連邦のヘルスケア改革法が成立した。加入の義務化、民間保険会社の規制、既往歴があっても入れる、医療の効率化(予防重視包括払い)、赤字削減など、マサチューセッツ州の法を真似たものとなった。

 米国では19世紀まで、医師になりたいと思う人間が医師になっていた。しかし20世紀に入り、医学教育の整備が急務とされるようになり、国家(州)が資格を付与し始めた。しかし、病院では


医師
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コ・メディカルの長
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 コ・メディカルのスタッフ


という縦のつながりと 


経営陣
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医事課の長
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 スタッフ


 という縦のつながりができ、権力構造が二重になった。1965年に社会保障法が成立し、メディケア(高齢者医療保険)とメディケイド(医療扶助)の制度ができたものの、専門職が現場を支配し、医療が市場化し始めるきっかけとなってしまった。1973年には健康維持機構法が成立し、マネジドケア(管理医療)が浸透し始めた。なお、同国の著名な社会学者であるタルコット・パーソンズ(1902年-1979年)は、医師の5つの役割を明確に定めている。

① 業績本位(確かな知識と技術)
② 普遍主義(教育と科学の水準)
③ 機能的限定性(専門家の有無)
④ 感情中立性(患者重視と客観性)
⑤ 集合体志向(利他主義。患者利益を優先)


 日本は少子高齢化の影響により、医療や福祉の課題が増大するだろう。厚生労働省の調査によると、自宅で亡くなる人の割合は1割、医療機関では8割となっている。2040年には、年間死亡者数は166万人と推計されている。日本人の長寿の要因は、遺伝子・ライフスタイル・医療制度・社会要因とされているが、まだ研究の余地がある。(寿)