新潟大学大学院医歯学総合研究科
遠藤 直人教授


 日本整形外科学会では、骨・関節、靭帯、脊椎・脊髄、筋肉・腱、末梢神経など、体を支え(支持)、動かす(運動・移動)役割を果たしている器官を「運動器」と表現している。新潟大学大学院の医歯学総合研究科教授の遠藤直人先生が「運動器不安定症の要因としての骨粗鬆症」と題して演述した。   

 

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 運動器不安定症は、06年4月から保険適用となった新しい疾患概念である。我々が、日常生活を営むために欠かせない運動器の機能が損われた状態をいう。医学的には「高齢化により、バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態」と定義づけられている。足腰が弱くなり、バランス能力や歩行能力が障害され、足もとが不安定になってふらつき、転倒する危険が高くなる。

 

 骨粗鬆症がある高齢者は、骨密度がまばらになり、強度が低下しているため、転んだり、ちょっとつまづいただけで容易に骨折してしまう。骨折で歩行が不自由になったり、あるいは背骨が変形してしまったりすると、外出するのが嫌になったり、また転倒するのではないかという恐怖心が出たりして、ますます閉じこもりがちになってしまう。

 

 運動器というのは、消化器、呼吸器、循環器などと違って、自分の意思で動かすことができる。しかし反対に、使わないでいると急速に退化してもろくなってしまう。加齢とともに運動器の機能は、どうしても衰えてくる。それに加えて閉じこもりなどで運動不足になると、筋力やバランス能力の低下が加速され、運動技能の低下は一層著しくなり「運動器不安定症」はさらに増悪するという悪循環に陥ってしまう。

 

 米国の国立衛生研究所は、骨粗鬆症を「骨折リスクを増すような骨強度上の問題を、すでに持っている人に起こる骨格の疾患」と定義している。要は骨がもろくなり、骨折しやすくなった状態のことであるが、近年、骨強度は骨量と必ずしもイコールではなく、骨質の低下による骨の微細構造の変化も関わっていることが明らかになり、このような定義になったといえる。

 

骨粗鬆症の治療には

①運動

②食事

③薬物

 

の3療法がある。

 

①骨の形成には運動負荷が有効である。歩く、泳ぐなどの有酸素運動が好ましい。

 

②カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなど、骨の形成に必要な栄養素を十分に摂取する。

 

③前記の必要な栄養素を補う薬のほかに、女性ホルモン、ビスフォスフォネート、ラロキシフェン、カルシトニンなど骨代謝を調節し、骨量を増やす作用の薬がある。 


(寿)