国立健康・栄養研究所
板倉弘重氏
◆日本動脈硬化学会ではガイドラインを改定し、これまでの「高脂血症」という表現を「脂質異常症」と言いかえることになった。シェリング・プラウ、バイエル薬品両社は記者セミナーを開き、国立健康・栄養研究所名誉所員の板倉弘重先生が、その予防と治療について演述した。
脂質異常症は生活習慣病の1つで、我が国では、潜在患者さんも含め3千万人はいると推計されている。人間の体の約10%は脂質であり、血液によって体内の各組織に運ばれ、重要な役割を果たしている。コレステロールを一概に悪いと決め付けてしまうのは、間違いである。生命の維持には不可欠な物質であり①細胞膜の構成成分になる②ステロイドホルモンを製造する③胆汁酸を製造する、といった役割を担っている。
人類の歴史は飢えと病いとの闘いであった。飢餓の時代は歴史の9割を占めているといわれている。それを乗り切るためにコレステロールは大切な存在であった。それが高い(つまり脂質を体に蓄えやすい)家系の方が長寿の人が多かったとさえ考えられている。このように太古の時代から体内にあったのだが、発見されたのは19世紀の前半であった。フランスの科学者が胆石にアルコールを入れて、溶解して結晶になる物質を見つけたのが最初である。
日本人のコレステロール値が急上昇を始めたのは80年代から90年代にかけてで、現在では男女とも米国とほとんど差がなくなっている。食生活の欧米化が原因と考えられている。しかし死亡率は米国の4分の1である。今後循環器系の疾患が増えると予測されている。脳や心臓の動脈硬化が心配されている。恐いのは、自覚症状がないことである。放っておくと慢性疾患として徐々に体をむしばんでいく。脳梗塞、解離性大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞の恐れが出てくる。アルコールを飲み過ぎて、脂っこい物を食べると脂肪肝、急性膵炎の危険がある。胆石症も要注意である。
女性の場合は、閉経後に血中に悪玉コレステロールや中性脂肪が増えてくる。抑制作用のあった女性ホルモン・エストロゲンの分泌量が激減するからである。
脂質異常症の改善にはバランスのよい食事、適度の運動、節酒、禁煙など、よりよい生活習慣を保つことである。(寿)