日本大学医学部
視覚科学系眼科分野 教授
湯澤美都子氏


 バイエル薬品と参天製薬は、加齢黄斑変性薬「アイリーア」の発売に伴い、セミナーを開催。日本大学医学部視覚科学系眼科分野の湯澤美都子教授が、滲出型加齢黄斑変性について講演した。アイリーアは現在、新しい治療選択肢として注目されている。

◇◇◇

 眼球には脈絡膜と呼ばれる膜があり、その下に網膜がある。網膜の中心には黄斑があり、「中心窩」はさらにその中心にある。半径3ミリ程度の大きさだ。それが物を見ている。加齢黄斑変性というのは、この中心窩が歪んだり暗くなる症状だ。

 厚生省の調査研究班によると、診断基準は「年齢50歳以上の症状において、中心窩を中心とする半径3000マイクロメーター以内の領域(黄斑)に異常な老化に基づく所見がある」としている。1998年時点で50歳以上の推定患者数は37万人だったが、2007年には69万人へと倍増した。現在はもっと増えている。その原因は、高齢者人口の増加だ。

 視覚障害の原因となるのは以下のとおりだ。


① 緑内障 20.7%
② 糖尿病網膜症 19.0%
③ 網膜色素変性症 13.7%
④ 黄斑変性症 9.1%
⑤ 高度の近視 7.8%
⑥ その他 29.7%


 黄斑変性症を放っておくと、徐々に視力が低下する。網膜の下部にある組織が、加齢により異常に老化するためだ。網膜色素上皮の下に老廃物が溜まって炎症が起こり、網膜色素上皮細胞から生産された血管内皮増殖因子(VEGF)が脈絡膜血管に作用する。そして、新生血管を発生させる。新生血管は、通常の血管に比べるともろく、出血や血漿漏出を起こしやすい。出血すると中心部が見えなくなり、血漿漏出すると成分が溜まり、視野が歪んでしまう。これが「滲出型」の加齢黄斑変性である。

 治療方法の変遷と現状について説明する。新生血管に対するものとして、2004年に「光線力学療法」が開始された。2008年以降は、VEGFを抑える治療薬が出てきた。目の中に注射するタイプの製品で、1ヵ月〜6週間の間隔で繰り返し使用する。低下した視力を改善することができる。この11月には、2ヵ月ごとに投与間隔が伸びた製品が登場した。それが「アイリーア」だ。理想的な抗VEGF剤の条件は


① より強い抗血管作用
② より長い作用
③ より少ない副作用


 とされている。「アイリーア」はこれに近い薬剤といえる。

 加齢黄斑変性を予防するためには、禁煙が重要だ。喫煙による血液中の抗酸化物質の破壊、血管の収縮が発症に関係していると考えられている。

 網膜が萎縮して黄斑変性になるが(萎縮型)、日本人には比較的少ない。治療法は今のところ無い。(寿)