兵庫教育大学大学院

学校教育研究科教授

鬼頭英明氏


 新学習指導要領に基づいた医薬品教育が、今年度より高校で開始される。それにともない、製薬メーカーからなる3団体が昨年、教育用DVDを制作。日本薬剤師会を通じて今後、全国約5000校に配布する。3団体の1つである、くすりの適正使用協議会(黒川達夫理事長)が19日に開催したセミナーで講演をおこなった、兵庫教育大学大学院・学校教育研究科教授の鬼頭英明氏(薬学博士)に会終了後、話を聞いた。

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——講演のなかで、医薬品を「使用方法を誤れば、健康障害を引き起こす『諸刃の剣』」と表現され、副作用を周知することの必要性を説かれていました。しかし、実際に配布されるDVD教材では本編40分のうち、副作用に関する説明はたった4分程度です。



鬼頭 このDVD自体は、指導要領のすべてを収めようと制作されたわけではない。(教育現場から声の上がった)医薬品の承認審査に関する分かりづらさに焦点が絞られているからだ。もちろん、(副作用を知るという)本質を教えるということに関していえば、このDVDはそれをうまく表現できているとはいえない。教育現場で(教師が内容を補足しながら、生徒に)教えていく必要がある。


——実際に実行可能でしょうか。


鬼頭 医薬品が「諸刃の剣」であることは当然教えなくてはならない。しかし、医薬品教育の内容そのものが非常に盛りだくさんであるため、それをどの程度しぼって教育していくのか— といったことの方が重要になる。副作用に関しては、(昨年4月から実施されている)中学校での教育プログラムですでに教えているため、高校ではそれをさらに深める形になる。


——学校薬剤師の積極的な活用についても言及されていました。そのためには、保健体育教諭や養護教諭とのチームプレイが必要です。どう見ていますか。


鬼頭 パッとできるようなものではないが、彼ら自身がチームプレイをしっかり意識していれば、連携は「わりとうまく進む」といった話をすでに聞いている。意識が高まらなければ、一人が努力しても無理。お互いの「共通理解」が今後、求められる。


——最後に。


鬼頭 問題意識を持つ人間が繰り返しどれだけ働きかけていくのか、これしかない。


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昨年10月、3団体の1つである日本製薬工業協会が開催したセミナーで壇上に立った、同協会の河村真副委員長は、一般社会から見た製薬業界が、いまだに「遠く、特殊な存在」であるとし、その理由を、これまの情報開示の甘さにあると位置づけた。同日に公開された患者アンケートでは、約85%が製薬業界について「信頼できる」と回答していたものの、その理由は「信頼するしかない」と決して肯定的にとらえることができないものだった。


 また、日常生活で接点が少ないといわれる、有識者としての学校薬剤師と、学科担任である保健体育教諭を、養護教諭がコーディネートし、「有機的連携」(同協議会)をおこなうといった構図についても、具体的なイメージが見えてこない。協議会では過去5年間で計61回、4000名以上の中学校の保健体育教諭、養護教諭に対して出前研修を行っていると実績をアピールするが、疑問は残ったままだ。

 医薬品は,有効性や安全性が審査されており,販売には制限があること。疾病からの回復や悪化の防止には,医薬品を正しく使用することが有効であること——。


 新学習指導要領に記されたこの一文に、団体の理念は今後、どこまで近づくことができるのか。これからの動きに注目したい。


※一部団体名を修正して再送します。