社員の健康増進に寄与する新しいタイプの社員食堂がブームです。

 東京都JR浜松町駅から徒歩10分ほどの閑静なビル街に、ロート製薬の社食があるというのでお邪魔してみることにしました。


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ロート製薬の社食『旬穀旬菜Café』は、『心と体を健やかに保ち、社員みんなが健康でいきいきと過ごせるようにする』ためにスタートした同社の福利厚生施設「Smart Camp」のひとつだ。


『旬穀旬菜Café』は、Smart Campの「福利厚生のおすそわけ」というコンセプトのもとに、社員のみならず一般の人へも開放されている。


“食事をするということは命をつなぐということ”という理念のもとで作られた『旬穀旬菜Café』のランチは、毎日3種類。週替わりの薬膳2種と月替わりのカレー1種がメニューになる。


 いずれのメニューも数量限定なので、お目当てのメニューがある場合には、オープン直後の11時30分到着を目指して出かけたい。


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 店内に一歩足を踏み入れると、ほんわりと良い香りが漂ってきた。小さい頃、外でくたくたになるまで遊んで家に帰ってきて、玄関のドアを開けたときにふわりと鼻をくすぐる、あの懐かしい香りだ。


 店内はぐるりとガラス窓で囲まれており、たっぷりと太陽の光が差し込んで明るい。床とテーブルは木目。座席の間隔にはゆとりがあるので、お昼休みに訪れる会社員は、ほっと肩の力を抜いて、心地良いランチタイムを過ごすことができる。


 客は女性が多い。近所のOLだろうか、良い香りのするお膳を囲み、リラックスした表情で楽しいランチのひとときを過ごしていた。
 

 店内を包む良い香りに、お腹がきゅうきゅうと鳴る。早速週替わりの“冬の一汁三菜メニュー”をオーダーすることにした。


“薬膳”という言葉から、薬用人参など漢方薬に用いる薬草を刻んだ、茶色っぽい野菜だらけのお料理を想像していたが、目の前に現れたのは、田舎に帰ったときに、おばあちゃんが時間をかけてゆっくり丁寧に作ってくれた家庭料理といった風情の料理だった。


 それもそのはず。「旬穀旬菜Café」の薬膳は、日本食をベースにし、日本で四季折々に採れる食材を使って日本人に合わせて開発されているからだ。派手ではないけれど、作り手のぬくもりが感じられる。


取材に伺った日のメニューは以下の2品。

■A膳

主菜:鮭と彩り野菜の甘酒タルタルソース
副菜1:カリフラワーのカレーマリネ
副菜2:かぼちゃの味噌炒め
汁物:舞茸と葱のスープ
ご飯:白米または玄米

■B膳

主菜:かぶと海老団子の柚子胡椒風味
副菜1,2、汁物とご飯はA膳と共通


 主菜は、どちらも内臓をあたためるといわれる食材が用いられていて、体の中からぽかぽか温めることが出来る。


 副菜1は胃腸の働きの活発化、副菜2は美肌、汁物は風邪予防におすすめだそう。


 忘年会続きで疲れた体にやさしそうなメニューの数々だ。

 お膳の撮影をしていると湯気と一緒に、B膳の柚子の香りや副菜のカレーの香りが立ち上ってきて、先ほどから鳴っていたお腹がさらにグウグウ、自己主張を始める。


 体は香りでも“体にいいもの”を感知出来るようだ。


 また、盛り付けもまた食欲をそそる。


 大きめの皿に、高めに盛られた料理は、ふっくらとしていていかにもおいしそうだ。メニューの開発をしている国際薬膳師の堀実佐子さんが関西の出身で「京都のおばんざい」風の盛り付けを取り入れているのだそう。

「料理は味だけではなく、目と香りでも楽しむもの。ソースのかけ方や彩りもとことん話し合って作り上げます」


 そう語るのは、スマートキャンプ東京の菊地寿子さんだ。

 料理の細部にまでこだわることができるのは、毎月一回の試食会で徹底的にアイデアを出し合っているからだという。

「毎月1回、調理のスタッフが次の月のメニューを試作します。その料理をカフェの運営スタッフが2時間くらいかけて試食し、ああでもないこうでもないとメニューを練り上げています」

 私の目の前にあるお膳は、スタッフの方たちがこうして惜しみなく注いだ手間ひまの“おすそわけ”なのだ。

「いただきます」


 1日3回、なにげなく口にしていた6文字の言葉。


 今日は、作り手の方への感謝の気持ちが自然とこもった。

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 社員とカフェを訪れるお客さんの健康を願い、毎月生み出される35種類の料理。


国際薬膳師の堀先生と共にレシピ作りをしているのが同じく国際薬膳師の溝間さおりさんだ。

 溝間さんは奈良県の出身。


 薬膳料理に興味はあったが、旬穀旬菜Caféで働きだすまでよく知らなかったという。しかし、カフェで働き出し、薬膳のことを知れば知れば知るほど、次第にその魅力にとりつかれていった。

「薬膳の基本はその土地でその季節にとれるものをバランスよく食べること。当たり前のことなんですが、考え方がすべて理にかなっていて、すとんと心に響いて納得できたんです」

知識を蓄えれば、カフェにくるお客さんに今まで以上に役立つ情報を提供出来ると考え、仕事をしながら、毎月1回土日を丸々使って奈良から京都まで薬膳を学びに行くことにした溝間さん。


 卒業するまでにかかった年数は2年。無事に試験を突破し、国際薬膳師になった。

 国際薬膳師になってからは、「カフェに来るお客さんのための効能書きやレシピ開発など、責任のある仕事を任されるようになりました」と嬉しそうに語る。


 1月のランチには溝間さん開発のメニューが2品並ぶそうだ。

 現在一番苦労しているのは、このレシピ開発だという。

 ネタ帳を常に持ち歩き、外食をしていておいしいものがあったり、盛り付けの美しいものがあったらメモをとるようにしているそう。テレビや雑誌なども当然チェックしており、「いつでもどこでも、何をしていても料理のことばかり考えてしまう」のだとか。

「レシピを考えたら、次は試作です。それを先生に試食して頂いて講評を頂くときが一番緊張しますね…」

と溝間さん。

「緊張の瞬間を乗り越えると完成までは早いです。先生のアドバイス通りにレシピに手を加えると、料理が2段階、3段階、格段においしくなるんですよ」

 先生はやっぱりすごい、と言う溝間さんの言葉には堀さんへの尊敬の思いがこもっていた。

 数々の段階と苦労を経て、私たちの前に出される料理の数々。

「『おいしかった。また来るね』そう言って頂けたときが一番うれしいですね」

 お客さんの中には、テレビや雑誌で噂を聞きつけて、遠方から来た方もいるそう。

 そんなお客さん方に声をかけてもらえるくれる瞬間は、溝間さんにとって何物にも代えがたいやりがいを感じるときだという。

「これからもお客様の『おいしかった』の声を聞くために、国際薬膳師としての腕を磨き、知識を蓄えていきます」

 そう言って微笑む溝間さんは、社員とお客さんの健康を支える自信に満ち溢れていた。

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 取材を終え、溝間さんに家庭で取り入れられるこの冬おススメの簡単レシピについて尋ねてみました。


 おススメは、「かぶ、だいこん、きゃべつ」を使ったスープ。


 スープにすれば、しみ出した栄養もすべて体に取り入れることが出来るからだそう。


 新年においしいものを食べすぎて疲れた胃にやさしいスープ。聞いただけでぽかぽかしてきますね。私もぜひ挑戦したいと思います。(育)