NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML

理事長

山口育子氏


 患者主体の医療の実現をうったえるNPO法人ささえあい医療人権センターCOML(大阪・北区)の山口育子理事長が都内で講演を行い、今後求められる薬剤師像について持論を展開した。会の主催は、くすりの適正使用協議会。講演要旨は以下のとおり。

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 特定領域について専門的な知識を持った病院薬剤師が活躍し始めています。たとえば、チーム医療の一員として、緩和ケアにたずさわっているがん専門薬剤師が抗がん剤に関するアドバイスをドクターへ行なっているケースなどが挙げられます。近年では、治験コーディネーターを兼任する薬剤師まで出てきました。その結果、病院薬剤師が患者の前に現れる機会が増えたことから、彼らの役割が可視化されるようになってきました。


 それとひきかえ、旧態然とし、役割が見えてこないのが薬局薬剤師です。処方される薬に対して関心を持っていない患者などほとんどいないにもかかわらず、薬局薬剤師はいまだにドクターに遠慮して、患者に対し十分な情報提供を行っていません。またこのごろ、「カウンセリング」という名の下に病気について根掘り葉掘り尋ねてくる薬剤師がいるそうです。患者にとって薬局とはカウンセリングを受けに来る場所ではなく、薬を処方してもらう場所ですから、「なぜ病気のことまで聞かれなければならないのか」という声も出てくるわけです。なぜこんなことが起こってしまうのか。それは、薬局薬剤師が患者にとって、どのような専門性を持ち、彼らになにを期待できるのか、といったことが見えてこないからでしょう。いわば存在意義です。


 今年の3月まで、医療機関で算定可能な「薬剤情報提供料」は1回10点で、調剤薬局での「お薬手帳」への情報提供は15点となっていました。しかし4月からは薬剤情報提供料が廃止され、お薬手帳への情報提供が薬剤服用歴管理指導料の算定要件となり、30点から41点に増えました。それを聞いた時、私はとてもうれしかったのを覚えています。「これでようやく、『薬歴管理』という薬局薬剤師の重要な仕事について、患者が知ることができる。彼らもこれからはきちんと説明してくれるだろう」と。ところが蓋を開けてみると、薬局では患者に対して、「お薬手帳を持つことが4月から『義務化』になった」とか、「お薬手帳を『必ず持ってこないといけない』」と伝えるようになってしまいました。本来行わなければならない説明をうやむやにしたまま、手帳だけを強要することに変わってしまった。なぜ薬局薬剤師は薬歴管理について患者に伝えないのでしょうか。薬歴管理は情報提供と並ぶ、薬局の重要な仕事であるはずです。


 私は2008年、ある抗生剤を使ったことで全身に発疹が出たことがあります。病院で薬疹と診断され、8日間入院し、ステロイド治療を行いました。退院後、その病院の門前薬局に足を運び、「こちらで処方してもらった薬で発疹が出た」と伝えたところ、薬剤師さんは「へぇ〜大変でしたね」とニコニコ笑うばかりで、メモすら取らなかった。「この薬局は自分にとって意味がない」と、瞬時に感じ薬局を替えました。現在では、COMLの事務所近くにかかりつけ薬局を持っています。ちなみにその門前薬局とは、某チェーン店です。

 薬剤師会のある方に聞いたところ、全処方箋の3%が疑義照会されているとのことです。しかし、たとえ照会したところで医師から、「変更の必要なし」と言われると、薬局薬剤師は、照会したことすら患者に伝えません。これでは、薬歴管理も疑義照会も、患者から見えない、調剤室の奥のほうで行われているのと同じことになる。かかりつけ薬局を持つことの重要性を感じている患者がまだ少ない中で、そういったことを続けてはいけません。

 先日、事務所に「最近よく、フラフラする」という相談の電話がかかってきました。初老の女性からです。話を聞くと、彼女が内科・整形外科・精神科、計3つの医療機関を受診していることが分かりました。3つの科で重複する薬はないはずですが、彼女は全ての科で、病気にかかっていることに対して、「不安である」ということだけは伝えていました。その結果、3つの科全てから抗不安薬が処方されていたのです。通常量の3倍の服用です。ところがそれぞれ違う門前薬局で薬を受け取っていたので、各薬局の薬剤師は重複に気づかなかった。かかりつけ薬局に処方を一本化するか、お薬手帳を一冊にまとめてさえすれば、こういった間違いは起きません。


 6年制薬剤師の誕生にともない、薬局実習が義務化されました。「薬局の仕事とは何か」ということを学ぶ時代がやってきたということです。新しく入ってきた後輩薬剤師たちに自分たちの背中をこれまで以上に見られます。いまこそ意識改革を行っていかないと、「なんだ、薬局薬剤師って、こんな仕事をするだけでいいのか」と思われてしまう。これまでの薬局薬剤師の方たちには臨機応変なコミュニケーションを身につけて、薬の相談相手としての役割を十分に発揮してもらうことを望みます。