10月下旬、WHO(世界保健機関)の研究機関が、ソーセージなどの加工肉とがんの関連を発表した。これを受けて、国立がん研究センターが「平均的摂取の範囲であれば大腸がんのリスクへの影響はほとんど考えにくい」とのメッセージを発信するなど、“ソーセージ悪玉論”は、大いに盛り上がった。


 「医食同源」という言葉があるくらい、日本人は食事と健康を結び付けて考えるが好きな国民だ。いつの時代も、○○を食べれば健康になるとか、××を抜けば健康になるとか(糖質制限のブームはずいぶん長いこと続いているなぁ)、食事にまつわる健康法は次々に登場している(その多くは消えていく)。


 生来飽きっぽい自分の場合、「よし今日から〇〇を食べよう!」と思っても、3日で飽きてしまう。「明日から炭水化物を抜くぞ!」と誓っても、ついランチの「大盛り無料」の張り紙を見るとガマンできなくなってしまう。根が貧乏性なのか……。


 というわけで、数多ある健康法を実践できたことはないのだが、仕事柄、「正しい情報を知っておいて損はない」と手に取ったのが『食をめぐるほんとうの話』。たんぱく質、炭水化物、ビタミンなど基本的な栄養の話から、食品汚染、添加物、健康食品、サプリなど、一般の読者にとって関心の高い問題までコンパクトにまとめた1冊だ。


 本サイトの読者の多くが関係している「薬」だと、大半は効果とリスクが科学的に説明されているが、「食」の場合はそう単純ではない。


 例えば、ある食品が健康被害を起こす可能性が少しでもあれば、販売禁止となることがある。もちろん、食べた直後に死者や重病人が出るような食品汚染や毒性のある添加物の場合、さっさと禁止にしてしまえばいい。難しいのは、微量の有害物質が含まれているようなケースだ。本書が指摘するように、〈食品には長い歴史の中で培われたそれぞれの国の食文化に支えられたもの〉が少なからずあり、一部の地域では普通に食べられているからだ。常識を外れた量を食べなければ、害がない。


 冒頭のソーセージにしても、本場のドイツ人からみれば「余計なお世話」と映ったことだろう。実は、われわれが慣れ親しんだ日本の伝統食品も、国によっては避けられるものもある。英国では、〈“ひじき”に「ヒ素」が含有されているとして、「“ひじき”を食べないように」と勧告〉している。欧州食品安全機関は、〈“かつおぶし”には、発がん物質である「ベンゾピレン」などが含まれており、「EUの安全基準を満たしていない」として輸入禁止〉にしているという。


 だからといって、日本人なら、明日から「絶対ひじきは食べない」「かつおだしはNG」とはならないはずだ。テレビや新聞、雑誌、インターネットでは、いろんな食品の情報が溢れかえっている。自分で読み解く判断力を持ちたいものである。


■考慮されない薬との“飲み合わせ”


 本書は健康食品やサプリメントにも1章を割いているが、気になったのが、〈薬品と食品中の機能成分の同時摂取に伴う「食薬相互作用」を考慮することが重要です〉のくだりだ。血栓症の治療薬ワーファリンを飲んでいる人は、薬の効きが悪くなるので納豆を食べてはいけないというのはよく知られた話だが、有効成分を濃縮しているサプリなら、さらに薬と “飲み合わせ”の悪いものが存在していてもおかしくない。もっと検証されてもいいだろう。


 著者は、食品安全の専門家が中心となっているだけに、きっちり根拠をもって書かれているうえ、現実を踏まえて、バランス感覚に優れた結論を導き出している。


 なぜ日本酒の有名銘柄に醸造用アルコールが添加されるのか? なぜ農家が食べる野菜が「無農薬」なのか? まわりに「純米酒じゃなきゃ日本酒じゃない」「有機野菜以外は食べない」などと説教する“オーガニック原理主義者”が結構いて、辟易していたのだが、本書には反撃材料がたくさん詰まっており、思わずニンマリ。本当は、食べ物にあれこれこだわりがないだけなんだけど……。(鎌)


<参考データ>

『食をめぐるほんとうの話』

阿部尚樹、上原万里子、中沢彰吾著(講談社現代新書760円+税)