日本アノレキシア・ブリミア協会(NABA)

共同代表

鶴田桃江さん


 様々な自助・ピアサポートグループが一堂に会するイベント、「ピアサポ祭り」が2月17日、玉川区民会館ホール(東京・世田谷)で開催される。今年で9回目。参加グループのアピールや有識者によるシンポジウムなどが行われ、毎年400〜700人を動員する人気イベントだ。同イベントを開催するのは摂食障害者の自助グループ、日本アノレキシア・ブリミア協会(通称NABA、東京・世田谷)。同協会の共同代表を務める鶴田桃江さんに開催の背景や抱負などを聞いた。


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「ピアサポ祭り」チラシ


——チラシを見ると、「第9回」ではなく、9回目の「巻」と書いてあります。これにはなにか意図があるのですか。


◆これまで年1回のペースでイベントを開催してきましたが、私たちには「義務感にとらわれず」行なっていきたいという思いが常にあります。ですから、少し柔らかな表現に変えることで、その意図を表しています。当協会は拒食症や過食症と向き合う摂食障害者の自助グループです。摂食障害はこれまで、別名「よい子病」と呼ばてきたように、「人生こう生きる”べき”」であるとか、「自分は子供にとっていい親でないと”いけない”」と考えてしまいがちな、とても「真面目」な人たちが陥りやすい傾向があります。ですので、障害を無理に直そうとするのではなく、その背景にある、狭くかたくなな価値観を広げていくことが大切だと考えています。

 摂食障害はこれまで、アルコールやドラッグ依存症といった、いわゆるアディクション(=依存)として捉えられるケースが少なくありませんでした。しかし、そうでしょうか。アルコールやドラッグは摂取しなくても生きることができますが、摂食障害者の対象は食べ物です。摂取しなくては生きていけない。アディクションという枠組みでは解決しきれない部分もあります。どうやって障害と仲良く付き合っていくかという視点が必要です。当会のモットーは、「いいかげんに生きよう」ですし、イベント開催の根底にも、こういった肩の力を抜いて物事を見る視点があります。

——今回の開催テーマである、「ゆらぐ はみだす むきだす・私」もそういったことが由来なのですね。ちなみに、摂食障害は家庭環境と相関関係にあるのでしょうか。


◆摂食障害者の家庭環境で「目に見えて」崩壊しているケースは少ないですね。当事者の父母ともにまったく問題ないどころか、外から見ると「良いお家」と見えるケースも多い。障害が引き金となって発生する犯罪も万引き程度です。ドラッグ依存症などのように刑務所に行くなどの、分かりやすい犯罪が少ない。裏を返せば、そのスケールが小さい分、障害が可視化されにくいといえます。

イベントでは、参加グループがアピールを行う(写真提供:NABA)


——来場対象としているのも、自助グループを求めている人たちなのですか。


◆一般的なアディクション関連のイベントには、依存を抱えた当人やその家族が来場する割合がとても高いといわれていますが、私たちは一人でも多くの「普通」の人たちに来てほしいと願っています。人間関係のちょっとした悩みでもいい、漠然とした生きづらさでもいい。アディクションも生きづらさも本質的な根っこは同じです。それを共有してもらいたい。外では明るく振る舞っていても、実は心が不自由だった、という人たちを、私はこれまでたくさん見てきました。イベントに足を運んだからといって悩みがすぐに消えたりするわけではありません。しかし、参加している各グループの存在を知り、彼らの体験談を聞いて心の隅にとめておくことで、いざという時にそれを思い出して、心の支えにしてもらいたい。花の種のように、心の中にゆっくりと咲かせていってほしい。

——誰しも大なり小なり悩みはあります。


◆個々人の悩みや傷つきというものは、人と比べられるものではありません。他人から見れば「小さなこと」でも、本人にとっては大きな苦しみです。「こんなことぐらいで…」と思わず、勇気を出して相談できる人や場を求めていってほしい。

——そういった人たちにとって、自助グループはこれまでよりアクセスしやすい環境になっていますか。


◆課題はあります。自らを否定的にとらえている人が多いわけですから、最初は、自分と似た境遇の人にわざわざ会いにいくのは考えにくい。インターネットで自ら自助グループについて検索することも少ないと思います。当協会では、13時から16時の間で電話相談をおこない、1日約10人と会話していますが、電話をかけてこられる方は病院やカウンセリング機関を渡り歩き、結果的にグループへたどり着いたというケースが多いですね。

信田さよ子さんのコーディネイトによる、イベント恒例のシンポジウム(写真提供:NABA)



——そういった課題をどう克服していけばよいのでしょうか。


◆お互いの「違い」を認め合える社会を作ることではないでしょうか。相手に「共感」することに関しては、皆さん比較的できますが、互いの置かれた、社会的・経済的、その他さまざまな環境の違いを認め合うことは意外と難しいのです。同じ摂食障害者の中でも、「勝ち負け」みたいなものが発生してしまうケースもあります。自助グループ同士の縄張り意識みたいなのもある。「違い」を認めて、そういった垣根をとっぱらうことが大切です。それをイベントの開催を通してうったえていきたいですね。

 また、当協会もそうですが、自助グループは慢性的な資金不足にあります。資金援助の点においても、本音は行政に頼りたい部分もありますが、縦割りの弊害で、うまく物事が運びづらい。しかし、そういったところに不満を持つ前に、自助グループが自らアクションを起こしていくことが大事だと考えています。口を開けて待っていてもなにも始まらない。「今、理解ある人たち」をどう得ていくのか。自分たちにできることをやっていきたい。


——最後に。


◆ピアサポートのお祭りを「ピアサポ」祭りと省略していますけど、言葉の響きが、お笑いグループの「雨上がり決死隊」の「みやさこ」さんに似てるでしょう。なんだか親しみがわきませんか? 抜群のネーミングセンスだと自負しています(笑い)。皆さん、肩の力を抜いて、ピアサポ祭りに遊びに来てくださいね。

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参考リンク

日本アノレキシア・ブリミア協会(NABA)

http://naba1987.web.fc2.com/


ピアサポ祭り 2013 ホームページ

http://naba1987.web.fc2.com/events/pia2013.htm