福島県立医科大学医学部
神経精神医講座教授
丹羽真一


 統合失調症は適切な治療と対処によって回復が可能な病気である。早期に発見して治療することでより早い社会復帰が期待できる。大塚製薬のプレスセミナーで、福島県立医科大学医学部の神経精神医講座教授・丹羽真一先生が演述した。演題は「認知機能から統合失調症治療を考える——リカバリー(回復)を目指して」。

 

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 「リカバリー」とは「病気であっても、人間として元気に生きる姿勢を回復しよう」ということである。

 

  統合失調症の発症メカニズムについては、現在のところ脆弱性——ストレス・モデルが広く受け入れられている。これは個人の持つ病気のなりやすさ、すなわち精神生物学的脆弱性と、社会環境的なストレスが相互に作用することによって、薬物療法、家族・職場など周囲からの感情的支持や社会生活技能などの発病に対する防御要因が十分でない場合に、発症ないし再発をきたすという考えである。ここでいう精神生物学的な上弱生徒は、統合失調症になりやすい心理機能と、それを形成する脳機能の作動特性であり、その大きな要素が認知機能障害だと考えられている。

 

  認知機能障害とは、言葉の流暢性、注意力、記憶力、情報処理能力などが、障害されることをいう。統合失調症の場合、食事や金銭の管理ができない、人付き合いや気配りが苦手、疲れやすい、要領が悪いなどの生活障害として、認知機能障害の影響が現れる。統合失調症患者の認知機能障害は、発病メカニズムや種主のレベルの障害の背景となる主要な機能障害と考えられている。したがって、統合失調症における認知機能障害を改善できれば症状のみならず生活の質の面でも、長期的な予後の改善の面でも、大きな影響を及ぼすことになる。

 

  統合失調症の治療には抗精神病薬が使われるが、従来型といわれる定型抗精神病薬は認知機能障害に対する十分な改善効果は得られていない。近年臨床使用されるようになった非定型抗精神病薬は、認知機能障害を改善する可能性が明らかになりつつある。精神科のリハビリテーションによっても認知機能の改善が示されており、両者の組み合わせ治療の重要性が高まっている。

 

  精神科の医療従事者は、抗精神病薬の様々な作用を活用しつつも、患者さんの日常生活を妨げる副作用を、できるだけ軽減する努力を求められている。副作用は、治療に対する信頼感を失わせ、またそれ自身が生活の質を悪化させるからである。過剰な沈静は断薬につながり、生活の質を低下させ、学習・記憶の妨げになる可能性が高い。適切な薬物療法と精神科リハビリテーションをこれまで以上に統合して進めることにより、統合失調症治療の効果も高め、当事者が目指す「リカバリー」に向けて共に進んでいくべきである。(寿)