慶應義塾大学医学部内科
岡本真一郎氏


 セルジーン㈱のプレスセミナーで、慶應義塾大学医学部内科の岡本真一郎先生が演述した。岡本先生は血液・リウマチ診療科部長で、演題は「骨髄異形成症候群(MDS)と多発性骨髄腫(MM)の治療」であった。


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 血液細胞のおおもとになる「種の細胞」(造血幹細胞)になんらかの異常が生じ、正常な赤血球、白血球、血小板ができなくなるのが「骨髄異形成症候群」である。血液細胞の役割は次のようである。


 赤血球= 細胞中にあるヘモグロビンという蛋白質に酸素をくっつけて体中に運搬してくれる運び屋。


 白血球= 細菌、カビ、ウイルスなどの外敵から体を守ってくれる強い兵隊。


 血小板= 血管に穴があいて出血した際に、穴をふさいで止血してくれる糊。


 赤血球が不足すると貧血となる。顔色が悪く、立ちくらみや体動時の息切れ・動悸が起こり、疲れやすくなる。白血球が不足すると発熱、咽頭痛、咳など感染症になる。血小板が不足すると鮮血が止まらないなどの出血傾向が続く。


 WHO(世界保健機関)は、MDSを5種類の型に分類し、その判断基準は国際的に統一されている。型によっては白血病に移行することがあり、MDSは白血病の前段階と呼ばれることがある。血液細胞の減少で生活の質が低下し、疾患の進行で生命が脅かされる場合もある。多くの患者さんが重度の慢性貧血となり、2週間に1度の赤血球輸血が必要となる。最近は、経口鉄キレート製剤が承認され、頻繁な輸血に伴う「鉄過剰症」の問題は改善されつつある。しかし輸血が引き続き必要な患者さんは、「輸血反応」「輸血血液からの感染」などのリスクに、さらされることになる。


 平成10年度の調査では、日本のMDS患者さんの数は7100人と推定されている。患者層は高齢者が主だが、小児や若年者にも起こる。男女比は1.5〜1.7と男性に多い。ピークは70歳代である。人口の高齢化に伴い、患者数は増えてきていると思われる。疫学情報が十分でないのが現状である。


 MDSは一般的に、問診、理学検査、血液検査、骨髄検査などにより血球数減少症を起こす疾患を鑑別して診断される。

 

①問診で、疲労、息切れ、頻繁な感染などの病歴を確認し、MDSの可能性を探る


②理学検査で、貧血所見、感染所見、出血傾向の有無を確認


③血液検査で、血球数以上や生化学的異常値の有無を確認し、血球形態異常の有無を確認


④骨髄検査で、血液細胞の形態診断、染色体分析、細胞表面抗原検査などを行い、MDSの確定診断にいたる。

 

 日本における現在の治療法は、一般的には輸血療法やG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)など感染予防のための支持療法(対症療法)が中心である。造血幹細胞移植療法が可能な患者さんには、当然それを実施している。


 骨髄腫は、血液のがんの1つである。骨の中の「骨髄」で抗体をつくる形質細胞(白血球の一種)が腫瘍化し、骨髄腫細胞に変化する病気である。これにより赤血球、白血球、血小板、さらには血液細胞のもととなる幹細胞ができにくくなる。骨髄腫という病変が多発的に骨に発生するので「多発性骨髄腫(MM)」と呼ばれている。


 日本では正確なデータはないが、発症年齢の中央値は男性65歳、女性67歳で発症率は10万人に2人とされている。MMは、腰痛など骨の痛みで見つかることが多い。問診、血液検査、尿検査、骨の検査などの結果から総合的に診断する。病型は3分類されている。体内の骨髄腫の量は患者さんによってまちまちである。治療法は近年進歩してきているが、残念ながら未だ不治の病である。したがって治療の目標は、治癒を求めるのではなく、症状や合併症の予防と緩和、異常な形質細胞の破壊、病気進行の遅延ということになる。(寿)