日本大学歯学部
歯周病学講座教授
伊藤 公一氏

 

 歯科医学・歯科医療から国民生活を考える—と銘打って、日本私立歯科大学協会(中原泉会長)が第一回歯科プレスセミナーを開催した。日本大学歯学部の歯周病学講座教授・伊藤公一先生が「歯周病と全身の健康との関係性について」と題して、講演した。

 

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 歯の周りの組織、歯周組織は四つから成り立っている。歯肉、歯槽骨、歯根膜、セメント質。この四つの組織のどれか、あるいはすべてに起こった病気を歯周病という。平成17年度の歯科疾患実態調査では、歯肉に異常のある人は15歳以上で74%にものぼっている。

 日本人の平均寿命が80歳となっているのに、歯の平均寿命は50〜70年である。永久歯が抜けた原因は、歯周病42%、う蝕32%、破折11%、その他13%となっている。歯の本数が減ると、脳が萎縮するという調査結果が出ている。70歳以上の高齢者1167人を調べたところ、健康群(652人、55.8%)の残存歯数は平均14.9本、認知症予備群(460人、39.4%)は平均13.2本、認知症の疑いがある群(55人、4.7%)は平均9.4本であった。69〜75歳の195人(健康群と認知症予備群)の脳をMRI(磁気共鳴画像化装置)撮影し、残存歯の噛み合わせ数と脳組織の容積との関係を調べたところ、残存歯数が少ない人ほど、大脳の海馬付近及び前頭葉などの容積が減少していた。海馬は、記憶や学習のメカニズムを担っており、アルツハイマー病になると萎縮する。前頭葉は、意思や思考などの高次脳機能に関連している。

 

 米国の全国民健康・栄養調査でも「歯周病の重症度に比例して、長期的記憶が優位に低下する」ことが証明されている。歯周病菌による全身性の炎症反応が脳に影響し、認知機能障害のリスクファクターとなる可能性も示唆されている。


 愛知県がんセンター研究所では、歯周病を予防することで口腔がんのリスクを低下させるという調査結果を発表している。入院患者の生活習慣アンケート調査(5年分)で、朝晩2回以上の歯みがきが、口腔・咽頭・喉頭・食道がんの予防につながっているというのである。これは細菌量をコントロールすることで、アルデヒドなどの有害物質を発生させる細菌量を減少させるからである。

 

 歯周病の原因はプラーク、つまり歯垢、歯苔の細菌塊である。痛みを伴わないので進行に気がつかない。歯を「磨いている」と「磨けている」とでは大きな違いがある。プラーク中の細菌数は1千万〜1億であり全身疾患と関係している。


①心臓血管障害

②感染性心内膜炎

③糖尿病

④細菌性肺炎

⑤慢性閉鎖性肺疾患

⑥低体重児早産

⑦高脂血症

⑧関節リウマチなどである。

 

 歯周病は、細菌による感染症であり、喫煙や食習慣などの生活習慣病でもある。口腔の健康が全身の健康につながっている。(寿)