聖マリアンナ医科大学
内科学神経内科教授
長谷川 泰弘氏


 今回取り上げるのは社団法人日本脳卒中協会とサノフィ・アベンティスが共催した脳梗塞再発予防啓発イベント「NO梗塞アカデミー」。脳梗塞再発予防キャンペーンとして“NO梗塞 NOリターン”を合言葉に開催されたイベントだ。 

 

 パシフィコ横浜のアネックスホールを埋め尽くした観客の前に現れたのは、アカデミーの“校長”である島田洋七氏。脳梗塞を患った義理の母の介護を手伝っているという島田氏の挨拶は、B&B時代から培ってきた話芸をフルに駆使したもので、その内容はほとんど漫談。主催者からオーダーがあったという「医者の言うことは聞いておこう」「薬はちゃんの飲み続けよう」というキーワードこそ含まれていたものの、がばいばあちゃんの話から最近あったおかしなことまで、仕事を忘れて聞きほれるほどの流れるような話しっぷりで会場を魅了した。

 

NO梗塞アカデミー 島田洋七校長

 

 20分弱の笑いあり拍手ありの挨拶で、会場が十二分に暖まったあとに出てきたのが日本脳卒中協会の山口武典理事長。テーマが「脳梗塞の再発をめざして」という硬いものだったにも関わらず、その語り口は島田氏に負けず劣らず巧みなものだった。

 

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 ここにお越しの脳梗塞の患者さん10人がお正月に集まったとします。果たして、全員が無事翌年の正月を迎えられるでしょうか? 脳梗塞は極めて再発しやすい病気で、1年以内に10人中1人が再発しています。つまり、10人で正月を迎えても、翌年には9人になっているということです。ここが脳梗塞の怖いところです。

 

 ここまで再発する患者さんが多いことには、はっきりした理由があります。患者さんの5人に1人が自己判断で通院を中止しているためです。これは「痛みもないし」「再発の気配も感じられないし」といった自己判断で通院を止めているのでしょう。ですから、こうした患者さんが、きちんと通院するようになれば、この正月に10人だったのが、翌年には9人になる……ということが避けられるはずです。

 

 でも実際には脳梗塞患者の4人に1人が薬剤の服用を中断(中止)。同じく3人に1人は生涯薬剤を服用しなければならない必要性を理解していないのですね。1年で10%近くの可能性で再発する危険性があるにも関わらず、「日常生活に支障がでなくなったから、いいや」と服用をやめているわけです。


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 脳梗塞には3つのタイプがあります。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症の3つです。具体的には図1〜3を参照してください。

 

 再発予防の治療は脳梗塞のタイプによって違います。自分の脳梗塞はどんなタイプなのか? については、服用している薬を見ればわかります。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞は抗血小板療法を実施し、心原性脳塞栓症は抗凝固療法を実施します。ただし、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞でも、心房細動がある場合は抗凝固療法を選択します。


 抗血小板療法は抗血小板薬を飲み続ける治療法です。動脈硬化で傷ついた血管を修復するために、血小板が集まって傷を治すのですが、これが血栓を作って血の流れを妨げるわけです。この血小板血栓を作らないようにするのがこの薬です。これを飲み続けないと、昨日まで元気だったのが“黒い枠”に入るなんてことになりかねません。

 

 抗凝固療法は抗凝固薬を飲み続ける治療法です。心臓や静脈でできる血栓はフィブリンという物質で出来ているのですが、このフィブリン血栓ができないようするのがこの薬です。効果が変動しやすいので定期的に検査を行なって、その都度、服用量が調節されます。また、ビタミンKを含む食べ物が禁止(納豆、クロレラ、青汁、モロヘイヤなど)されます。

 

 つまり、どんなタイプの脳梗塞であっても、「生涯にわたって薬剤を飲み続けなければならない」ことには変わりないわけです。

 

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 脳梗塞というのは基本的に生活習慣病の延長線上にあるものといえます。ですから病気の大元である生活習慣を改善をしなければなりません。つまり、タバコを止める、大酒を飲まない、食べ過ぎない、運動をする——こうした地道な生活習慣改善が必要になるということです。


 まず、高血圧。これは最大の危険因子です。血圧について言えば、低ければ低いほど脳梗塞再発の危険性が少ないことが明らかになっています。糖尿病がある人も再発率が高いのですが、高血圧、高脂血症のコントロールの方がより重要といえます。

 

 それからタバコ。これは百害あって一理なしです。「自分は20年以上タバコ吸っているから、いまさら止めても……」という人がいますが、これはいま、即刻止めても効果があります。それから飲酒。これは大量飲酒です。日本酒だと一合。ビールなら中ビン一本、ウイスキーならダブルで一杯。焼酎ならぐい飲み一杯ですが、こういうと喜ぶ人が多くて「そんなに飲めるんですか?」っていうんですが、これ全部じゃありませんから。このうちの一つです。

 

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 次に、脳梗塞になってしまったらどうするか? ということについてお話しましょう。


 脳梗塞を発症した場合には、身体の片方がしびれる、動かないという症状が出てきます。片手、顔の片側が動かない、しびれるといった症状が出た場合には、脳卒中である可能性が極めて高いといえましょう。そんなときは急いで救急車を呼んでください。そのほかの特徴的な症状としては、「片方の目が見えない、視野の半分が欠ける」「言葉が出ない、呂律が回らない、人の話が理解できない」「力はあるけど立てない、歩けない、フラフラする」というものがあります。この4つの症状は大切なことなので良く覚えてください。

 

 ここまでは自覚症状の話ですが、もし、家族や知り合いがこのような症状を見せたときにはどうすればいいのでしょうか?

 

 脳卒中かな? と思ったら、まず顔、腕、言葉の3つで確認してください。

 

「顔を見て『イーって歯を見せて』とお願いしたのに片側が垂れ下がっていた」


「『両腕を10秒間水平に上げて』とお願いしたのに、片腕がだらっと下がる」


「『本日は晴天なり』と復唱するようにお願いしたのに、呂律が回ってない」

 

 もし、一つでも当てはまっていたら脳卒中の可能性は70%以上です。迷わず救急車を呼んでください。3割外れでもいいんです。あと、患者自身で車を運転するなんてことは絶対に止めてください。事故を起こす可能性がありますから。

 

 最後に、本日の話のまとめとして、皆様に2つのお願いをします。

 

・突然悪くなったり、新たな症状がでたら、すぐに119番してください。


・再発予防薬は生涯にわたって服用が必要です。勝手に服薬を中止しないでください。

 

 この2つのお願いをもって、本日の授業を終了いたします。

 

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 その後、休憩を挟んで泉睦会(泉区機能訓練教室)ハーモニカクラブによる演奏(曲目は『北国の春』)、参加した患者、家族同士の情報交換会——とプログラムが進められた「NO梗塞アカデミー」。笑いあり、ためになる話あり、同じ境遇の仲間との出逢いあり……多くの患者や家族にとって、今回のイベントは「最高の日曜日」として想い出に残るものとなったに違いない。(有)