元島根大学
医学部附属病院
島田俊夫氏


「先進医療技術の役割」をPRしている在日米国商工会議所の医療機器・IVD小委員会の第14回メディアレクチャーが開かれた。東京女子医大の桜井靖久名誉教授がバイオマーカーについて簡単に説明したあと、元島根大学教授の島田俊夫先生が「心疾患におけるバイオマーカー検査の有用性」と題して演述した。

  

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血清中に含まれる物質を測定するのがバイオマーカーである。使用者の能力に依存しない検査システムで虚血性心疾患や心不全などの心疾患の早期発見に役立てることができる。すでに診断制度の高い検診を実現している地域もあり、全国レベルでの集団検診の実現が望ましい。

  


ヒトは、多細胞生物である。通常、酸素を使って細胞内のミトコンドリアというエネルギー産生プラントを用い、三大栄養素由来の物を燃焼させている。この時に炭酸ガス、水、活性化酸素が同時に発生する。この活性化酸素、つまりフリーラジカルが細胞や遺伝子を傷害し、老化の発生、癌の発生につながっていくと考えられている。ヒトが生きていく上で、このプロセスは避けて通ることができない。当然のことながら、食事の大量摂取は自ずから大量の活性化酸素を発生させる。過剰な摂取エネルギーは脂肪に変換され、蓄積されることになる。この脂肪がさらに動脈硬化を促進させる種々のホルモンを産生することもわかってきた。そこで、生きるための食事はゆっくりと、適量食べることが長生きの秘訣であるということになる。


 心臓の調節因子は4つある。


①心筋収縮力

②心拍数

③後負

④前負荷。

 

 ①は心筋の元気のよさがわかる。②は1分間当たりの心臓の拍動数で、安静時は60回である。③は駆出時にかかる抵抗、④は左室の収縮後期の容積である。血管が硬くなってくると老化が進む。20歳時のデータが維持されていれば、百歳まで生きられることを請けあえる。生活習慣、とくに食事の欧米化にともなって血管障害が増え、死因の上位を占めている。そこで血管障害を早期に発見し、早期治療に取り組むことが大切になってくる。

 

奥出雲における健診、その他の結果からわかったことを、結論としてまとめてみた。これまでの臨床医学は、患者さんが

①すでに病気になっている

②重症化していることが多い

③効果が出にくい

④お金がかかる

⑤苦しみの連続、であった。


これからの臨床医学は、次のようにならなければならない。

①病人をできるだけ減らす

②軽症のうちに治療

③効果が出やすい

④治療費が安くてすむ

⑤苦しみからの解放。


これまでの臨床医学は、病気が大きな問題となってから、治療を開始していた。これでは急性疾患を除いて根治は難しい。これからは問題が生じる前に治療を開始する、先手必勝が大事である。これを実現するために、自分自身の健康をいかにして自己管理するべきかを学び実践する施設の設立が必要である。臨床家が中心となって、国民を病気から守る臨床予防医学センター構想を実現させなければならない。まずは健康診断による感度・特異度の高い診断の導入が要求される。侵襲度の低い、精度の高い生理検査法、血液バイオマーカーなどの診断法が必要となる。

  

これからの治療は生活習慣の改善が先決となる。食事療法、散歩の励行、自己健康管理法(血圧・体重測定)、間食はしない、禁煙、十分な睡眠をとる、肥満を是正、節酒する。また薬物療法としては、少量の早期投与、継続的投与に留意する。

(寿)