コーディネーター
・岡山慶子氏(NPO法人キャンサーリボンズ副理事長)



パネリスト
・三島市立図書館 渡邉基史さん (司書)
・三重大学医学部附属病院 竹田寛さん (院長)
・静岡県立こども病院 医学図書室 塚田薫代さん (司書)
・厚生労働省 資源エネルギー庁 秋月玲子さん (健康局がん対策・健康増進課 課長補佐)


パシフィコ横浜(神奈川・横浜)で開催された「図書館総合展」において、パネルディスカッション「市民の健康を守る図書館の役割 『2人に1人はがん』時代をむかえて」が行われた。コーディネーターにNPO法人キャンサーリボンズの岡山慶子副理事長を迎え、司書が主導となった「がん啓発」活動で、新たな注目が集まっている図書館に対して、パネリスト4名が持論を展開した。

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岡山 図書館でがん啓発をするためには、司書にもそれなりのスキルが求められますが、渡邉さんはどのようにご努力されていますか。

渡邉 基礎的な医療知識は求められます。私は研修会などへ自主的に参加して身につけてきました。しかし、そのような会は地方であまり開催されません。ですから、交通費などもふくめ経済的な負担は大きかったですね。司書のスキルを高めるためにも、なるべく負担の少ない研修が充実してくれるとうれしいです。そうすれば、彼らの知識が図書館を利用する人たちへ自然と知識が伝わっていくと思います。

岡山 渡邉さんは、かねてより図書館利用者と司書の何気ない会話が必要だとおっしゃっていますが、私はこれがもっとも難しいと思っているのです。応対する司書の人柄にも関係してきますので。

渡邉 そうですね。利用者の方も質問するのに勇気がいりますからね。ですから、われわれ司書がはまず、その人たちの話を注意深く聞く姿勢を持たなければなりません。それに加えて、話してくださった人のプライバシーも守るとことも「明示する」必要があります。

岡山 塚田さんはどうお考えですか。

塚田 私は普段、静岡県立こども病院の医学図書室で、公共図書館や学校図書館を対象とした研修を企画しています。図書館での疾患情報提供サービスは近年、大変注目されている一方、公共図書館に対する予算は年々削減されており、その存続意義が問われている状況です。図書館は新たなサービスを模索しています。その点、長崎市立図書館は先進的な取り組みを行なっています。単にがん情報を提供するのではなく、「バランススコアカードと」いう手法に基づいて評価、ならびにデータ化している。これには医学図書館員である私も舌を巻いています。各行政の首長も図書館ニーズを掘り起こそうと躍起になっています。その一例として、愛知県田原市の館長さんからいただいたメールを読み上げてます。「自治体の重要課題は、部局横断で取り組むことが当たり前になってきている。地域医療の危機的な状況にあいまって、高齢化の進行による行政のコストはどんどん高くなっている。図書館を含め、考えうるあらゆる手を打ちたい」。このメールは、「オール自治体」で情報提供に臨まなくてならないということを意味しています。

岡山 塚田さんは、「病院は病人の行く場所。図書館はもっと敷居が低い」とおっしゃっていましたが、身近な公共図書館が情報提供の拠点となっていけば、素晴らしいですね。

塚田 公共図書館の強みは、なんといっても、哲学、栄養学、介護、お金、就労…など様々なジャンルの書籍を持っていることです。私が勤務する病院図書館は、そういった点においては弱い。

岡山 エビデンス(病気に対して明確な治療法を提示すること)と図書館、この両方が必要ですね。行政職に就かれている秋月さんはどうお考えになりますか。

秋月 司書の方も日々の業務でお忙しいため、全員が十分な知識を持つ、ことは難しいと考えています。ですから、専門性の高い、病院がすでに行なっている相談支援などと適宜つなげていくことが重要ではないでしょうか。その後も、厚労省の人間として、そこにどう貢献できるのか、ということは考えるべきです。さきほど、部局横断という話が出ましたが、(病院を管轄する)厚労省と、(図書館を管轄する)文部科学省も現段階では、情報を共有できていない状況です。

岡山 医療現場に直接携わっていらっしゃる竹田先生は、エビデンスと図書館の役割についてどうお考えになりますか。

竹田 がん患者というのは、平均1週間〜2週間で退院します。ですから、スケジュールがぴっちり入っている。ゆっくり本を読んでいる暇はありません。患者さんは退院後、外来治療の患者として通院するわけですが、その方たちは病院図書館を使わない。公共図書館を使います。ですから、病院と公共図書館が何かを一緒にやるというのであれば、対象を入院患者にしぼってサービス提供したらよい。写真集などの読むのが楽な本が合うと思います。もう一ついわせていただくと、どこの病院にも患者図書館というものがあるのですが、三重大学医学部附属病院では職員から集めたバラバラのジャンルの本を置いているのですが、公共図書館の方からそういったところに対して、本に関する専門的なアドバイスをしていただけると助かります。

岡山 三重県の場合は、行政と大学病院の仲がよいと聞きました。

竹田 大学病院の院長である私が県の医療政策について担当者と一緒に考えているぐらいですから、大変に仲がいいと思います。ほかの県ではそうはいかない。もともと三重県にはそういった土壌がありましたね。

岡山 図書館は地域にありますので、地域の行政と連携することが大事です。こういった地域連携について、塚田さんどう思われますか。

塚田 保健師さんや、地域の医師会などへ働きかけるのはいかがでしょうか。「渡りに船」とばかりに、情報をいただけることがあります。大分県では保健師さんと連携をして活動を行なっている図書館もあります。高知県の土佐市立図書館は年間10万円だけ予算をとって、医学情報の提供を始めています。最初から大風呂敷を広げる必要はない。手持ちの予算を見直すだけで始められることもあります。また、いきなり医師に話を持っていかなくても、ソーシャルワーカーなどが患者さんの日々の相談に応じている、地域連携室という場所も病院にはありますから、そういうところから繋がるのもアプローチ方法のひとつですね。「地域に開かれた病院」というのは公共の課題ですから、アプローチをしていけば、むしろ歓迎されると思いますよ。

岡山 渡邉さんはいかがですか。

渡邉 自治体の保健課や福祉課などに関連資料の有無を聞きに行くことをおすすめします。こうすると、彼らとつながることができれば、逆にあちらからも、「このパンフレットを図書館で配ってもらえますか」という話もいただけます。少しずつ人の流れを作っていくことが大事です。

岡山 図書館というと本を借りて返却するというイメージがありますが、家に「持って帰ることができる」パンフレットがあるというのは興味深いですね。実際、ニーズはあるのでしょうか。

渡邉 パンフレットは家で気軽に読めますから、「病気を知るきっかけ」のツールだとすれば、ニーズはあるでしょう。

岡山 (営利を目的とした)一般企業のパンフレットは敬遠されてしまいがちですが、中には実に素晴らしいものもあります。それらをぜひ活用して欲しいですね。秋月先生は、「がんになっても安心して暮らせる国作り」といった観点から、今日は図書館についてどうお感じになりましたか。

秋月 医療の中で「連携」という言葉は頻繁に使われています。一口に連携といっても、病院内での連携、病院と診療所・訪問介護ステーションなどとの連携、など実に多様です。連携とは、「まず、人を知る」ということではないでしょうか。そういったことを国が行うと、どうしても画一的といいますか、柔軟性に欠けたものになりがちです。連携の形自体も地域によってさまざまですし、一律に「こうやるのがいい」という答えはありません。国としてできるのは、医療の世界だけに閉じこもらず、物事全体に広く目を配って、互いの連携を促していくことまでだと思います。

岡山 これからは、二人に一人ががんに罹患する時代と言われています。そういった中で、皆さんに最後に一言ずつお願いしたいと思います。

渡邉 こういったサービスの提供をまだためらっている図書館もあります。私の務める三島市立図書館では、がん患者さんによる講演会などを開催し、終了後にアンケートとっています。そこに書かれている内容を見ると、講演会に参加した方たちの心の苦しみを、少しずつですが共有することができます。ためらっている図書館には、こういったサービスに取り組んで欲しい。

塚田 医学図書室としても今後、公共図書館や学校図書館とつながっていくことで、新たな情報提供を行っていきたいと思います。

竹田 このパネルディスカッションに参加して、新しい切り口を見つけることができました。これからも図書館の方々と、情報交換を柔軟に行っていきたい。

秋月 国としてどういったことができるか、今日話し合ったことを持ち帰って、考えてみようと思います。

岡山 図書館ががん患者とその家族を支える取り組みを行っているということに、私自身が、図書館の一利用者として感激しました。今後、活動をサポートしていけたらと思います。皆さん、本日はありがとうございました。

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國吉真樹 kuniyoshi@risfax.co.jp