東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
所長
山中寿氏


 最も身近で、最も厄介な難病である関節リウマチ。罹患率0.5〜1%、男女罹患比2:8という数字は世界共通のもので、こじらせてしまうと関節破壊から機能障害、さらには内臓病変により死に至ることもある——という恐るべき自己免疫疾患だ。かつては不治の病ともいわれた関節リウマチだが、今世紀に入ってからは、効果の高い生物学的製剤が続々と上市。いまや「痛みを軽減するだけの治療」から「骨関節破壊を防止してQOLを改善する治療」ができるようになってきている。今回取り上げるのは、ユーシービージャパン、アステラス製薬共催のプレスセミナー「関節リウマチ治療の進歩」。新しい生物学的製剤の最新事情を追った。演者は東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター・山中寿所長。


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 ほんの50年前まで、関節リウマチは文字通り不治の病でした。本格的な薬は何もなく、関節が曲がり、破壊されるのをただ見ているしかありませんでした。しかし、80年代に入ってからは、疼痛を医薬品でコントロールできるようになり、00年代に生物学的製剤が普及してからは関節破壊の進行をかなり止められるようになって来ました。そして10年代の現在、関節リウマチは「治療」すら視野に入ってきつつあります。


 このパラダイムシフトの立役者は、言うまでもなく生物学的製剤です。2000年10月、当センターで開始したリウマチ患者に対する前向き観察研究『IORRA』(図上=2/28プレスセミナー配布資料より)によると、00年から12年までのあいだに関節リウマチの重症患者が20%から5%以下に減少する一方で、寛解の患者は8%から40%にまで上昇(図中=Yamanaka H, et al. Mod Rheumatol. 2013 Jan;23(1):1-7)。加えて00〜07年のあいだに関節リウマチ患者の関節手術は軒並み減少しています(図下=Momohara S, et al. Ann Rheum Dis. 2010 Jan;69(1):312-3.)。このことは生物学的製剤の上市が、関節リウマチ治療を根本から変えつつあることの証左といえるでしょう。

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 関節リウマチ治療を現実のものとしつつある生物学的製剤だが、日本では02年に上市されたインフリキシマブ(製品名レミケード)皮切りに、数々の製剤が発売され、この2月に薬価収載されたセルトリズマブペゴル(製品名シムジア)まで含めると7剤を数えるようになっている。


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 関節リウマチに対する生物学的製剤のうち、最もメジャーなものはTNF阻害薬です。効果が高く良い薬ですが、関節リウマチ治療という観点からいえば、「メトトレキサート(MTX)との併用」を前提としています。MTXは副作用もあり、投与できない患者も少なくないことが、治療にあたっての足かせとなっていました。しかし、この2月に上市されたセルトリズマブペゴルは、MTXの有無に限らず関節破壊抑制効果が認められるため、MTXを投与できない患者に対しても優れた効果が期待できます。


 また、薬剤の構造も既存製品にはつきものの「Fc領域」が存在せず、ポリエチレングリコールを結合(PEG化)した抗体となっていることも大きな特徴です。このため、関節リウマチにおけるTNFαの炎症反応を抑制する一方で、それ以外に作用することがなく、既存製剤で懸念されたアレルギー反応などを気にすることなく使えることも、大きな特徴といえます。
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 マクロファージや白血球には細胞表面にFc受容体があるが、ここにFc領域を持つ抗体(=既存の生物学的製剤)が結合すると、他の細胞を傷つけてしまうという。最新の製剤にはFc領域がないため、こうした危険性を憂慮する必要はないそうだ。また、PEG化により水への溶解性が良くなるうえに、血中濃度半減期が延び、免疫原性も低下することで、アレルギー反応を起こす抗体が作られにくくなるとのことだ。


 TNF阻害薬が5剤、抗IL-6受容体抗体が1剤、T細胞共刺激調節薬が1剤というラインアップで、それぞれに特徴があるが、関節リウマチに対する効果という点では、大枠で一緒といっていい。ただし、最新の製剤が既存製剤に比べて利便性やキレなどの点で一定の優位性を持っていることが多いのは確かなようだ。


 点滴、静注、自己注射といった投与法や、血中半減期の多寡(たか)、それに伴う投与回数など、細かな使い勝手こそ違いがあるものの、基本的には、それぞれの医師がそれぞれの考え、治療方針により使い分けるべきものなのだろう。


 ある程度関節破壊が進行していても、これを元通りに近い形で寛解させる生物学的製剤の進歩と普及により、近い将来には、関節リウマチで寝たきりになることや、発症そのものを抑えることも可能になるのかもしれない——そんな明るい未来を予感させるような講演だった。(有)