シカゴ大学

博士

グラアム・ベル氏


 画期的な糖尿病研究を行った者に贈られる、「鈴木万平記念糖尿病国際賞」を受賞した、シカゴ大学のグラアム・ベル博士がこのたび来日し、糖尿病治療に対するiPS細胞(人工多能性幹細胞)への期待を表明した。また、大発見の裏側に隠れる「運」の存在についても言及した。発言要旨は以下のとおり。


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 山中伸弥教授によるiPS細胞の発見はこの20年から25年の間で、もっとも偉大な発見の一つであり、糖尿病学に対しても今後、大きな変化をもたらすだろう。特に、ベータ細胞のインスリン分泌に関して、より多くの治験が得られるのではないか。現在の技術でも、そのようなベータ細胞の培養は可能だが、あくまでもペトリ皿(シャーレ)上においてのみ。くわえて、実際の細胞とくらべても、「未成熟」な状態だ。だから、この未成熟なベータ細胞を成熟化させ、いかに地上に持ち込むか、ということが今後の課題となる。その完成が何年後になるのかは、私も分からない。1年後とも10年後ともX年後ともいえる。ようは「運」しだいだ。


 今回の山中教授の発見の根底には、想像力あふれる考えがあったことに違いはないが、少なからずとも「運」もあった。山中教授のオリジナルペーパー(原著論文)に細かく目を通したわけではないが、発見以前には多くの失敗をしただろうし、実際、偶然が重なった部分も大きいといえる。その失敗が良いアイデアに結びついたということではないか。


 私自身も「運」についてよく考えを巡らせるが、やはり、「どういった人物とともに仕事をしたか」ということが大きく関係していると感じている。さまざまな人物と議論を重ねることで、新しい観点を見つけることができるからだ。


 自らを取りまくさまざまな要素の中で、自身でコントロールできるのはほんの一部だけ。そのコントロール次第で、「運」を呼び寄せることができるかどうかが決まってくる。