東北大学大学院
機能薬理学分野教授
谷内 一彦氏


「気づきにくい能力ダウン」を「インペアード・パフォーマンス」という。家庭内での支障、企業や社会における損失は、はかり知れないものがある。サノフィ・アベンティス㈱のプレスセミナーで、東北大学大学院の谷内一彦教授(機能薬理学分野)が「インペアード・パフォーマンスとは?」と題して演述した。


◆          ◆

 

 インペアードというのは「正常な機能が損なわれた」あるいは「正常に機能しない」という意味である。

 

 花粉症などのアレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜上にアレルギーの原因となるアレルゲンなどの異物が接触し、ヒスタミンが過剰に分泌されて起こる。くしゃみ、鼻水・鼻づまりが主な症状である。その症状を改善させる薬が抗ヒスタミン剤である。


 しかしヒスタミンには脳を活発にする働きがあり、抗ヒスタミン剤が脳内に入ると脳の働きが低下してしまう。自覚症状としての眠気がでてくる。たとえ眠気がなくても知らず識らずのうちに集中力や判断力、作業能率が低下してしまう。本人が無自覚なままパフォーマンスが低下するのをインペアードというのである。

 

 抗ヒスタミン剤が脳内へ移行する際に、薬剤によって差があることがわかった。抗ヒスタミン剤2種類とプラセボの実験結果である。運転者に3種類をそれぞれ飲んでもらい、運転コースでランプの点灯に合わせてブレーキを踏んでもらった。すると運転者の反応が遅くなる抗ヒスタミン剤と、プラセボと比較しても反応の速さに有意な差がない抗ヒスタミン剤とがあることが確認された。つまり抗ヒスタミン剤でもインペアード・パフォーマンスをきたす薬剤と、きたしにくい薬剤とがあることがわかったわけである。

 

 インペアード・パフォーマンスは、自動車の運転や飛行機の操縦などにたずさわる人たちの場合、事故につながる危険性をはらんでいるといえる。個人的には自転車に乗るのも要注意である。危険を伴う作業場や勉強、スポーツ、さらには日常生活全般のさまざまな場面で、無自覚のまま集中力や判断力が下がることで、不都合が生じる可能性が高まってくる。


 にもかかわらず、アレルギー性鼻炎で通院した経験のある患者をその家族を対象にしたアンケート調査では、抗ヒスタミン剤によっては服用後の「作業効率の低下」に差があることを知っていたのは27・1%、「学習への支障」に違いがあることを知っていたのは25・6%であった。

 

 そこでインペアード・パフォーマンスの正しい認知・理解と、適切な花粉症の治療を啓発することを目的にプロジェクトを発足させることになった。メディアの皆さんにもご協力をおねがいしたい。(寿)