JA長野厚生連 佐久総合病院
地域医療部 地域ケア科
医師色平哲郎氏


 5月26日に星陵会館(東京・千代田)で行われた医療シンポジウム、「ドクターズ・デモンストレーション 〜日本の医療・福祉の危機とゆくえ〜」で、佐久総合病院(長野・佐久)で地域医療に取り組む、色平哲郎医師が登壇し、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について持論を展開した。内容は以下のとおり。


-----------------------------------------------------------


 ちょうど今頃でございましょうか、当時は民主党政権でありましたけれども、昨年5月22日に、私は東京に呼ばれまして、内閣府の政務官とTPPについて情報交換を致しました。インターネットで検索していただければお分かりになると思いますが、医療に関する市民側と日本政府との、第1回目のやりとりでした。議事録が残っておりますので、どうぞご覧になってみて下さい。


 その時、私が政務官に質問したのは、3年前の秋に日本の最高裁において、混合診療の全面解禁はしないと確定した判例についてです。「もちろんこれはTPP交渉において、条約が確定しても、最高裁判決のほうが上ですよね」と政務官にうかがいました。同様の質問を、現自民党政権にもぶつけてみたい。会場の中にも議員さんがいらっしゃるので、大変申し訳ないことですが、3年前の最高裁判決について、条約との関係をどのように今後、展開されていくのかをうかがってみたい。


 TPPは、T(とんでもない)・P(ペテンの)・P(プログラム)です。TPPに参加なのか反対なのか、今でもときどき聞かれますが、どうでしょうね、900ページぐらいある書類を読んでないですから、いつも「わからない」と答えております。TPPに賛成する根拠はありません。しかし、反対する根拠が、最近の並行協議や事前協議の内容で、明らかになってまいりました。国民が順番でお世話になる皆保険が、きちんと安泰でなければ、自分の老後も危うい。自分ごとでありますので、くれぐれも慎重に対応していただきたいということを、日本政府に繰り返すようにうったえております。


 ISD条項は何の略か。I(インチキ)・S(訴訟で)・D(大損害)です。北海道や、わが信州もそうなのですが、比較的へき地が多いところでは、TPPになった時、人々の生活が危ぶまれるのではないかと切実に心配されています。そのような時、TPPを読みぬくためのコミックをご紹介したいと思います。皆さん、「ヘルプマン」という漫画をご存知でしょうか。介護コミックでございます。介護の今後が立ちいかなくなれば、われわれの老後も立ちいきません。TPPを読み解くためリテラシーのためのコミックとして、発売元である講談社の手先となり、皆さまがたに広報していきたいと思います(会場笑い)。特に第8巻がおすすめです。


 TPAというものを皆さんご存知でしょうか。TPPとは異なります。TPAというのは、Trade Promotion Authority(大統領貿易促進権限)の意味です。私がオバマ大統領だとしますと、その貿易促進権限というのは、皆さん、私が持っていると思う人いらっしゃいますか?安倍さんがサインして帰ってきたんだから、オバマ大統領が当然、TPPを結ぶ権限を持っていると、皆さん思っていらっしゃいますよね?実は持ってないんですよ。合衆国議会の規定によりますと、合衆国大統領は「条約」を結ぶ権限はあるけれども、「通商交渉」を結ぶ権限はないとしています。TPPの権限は議会側にあるのです。議会側のボールを受け取れなければ、つまり、TPAというボールがなければ、オバマ大統領はTPPをまとめることはもちろん、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)をまとめることもできません。ということを皆さんご存知ない。


 3月19日、アメリカ上院で財政審議会の公聴会があって、日本時間の夜中11時に始まりました。英語は難しかったですが、私も見ました。大統領配下にある、USTR(米国通商代表部)が「君たちは権限もないのに勝手にTPP交渉を結ぼうとしている。これはどういうことなんだ」と上院議員に怒鳴られていました。4月にも似たような話題がございました。ですので、TPPをサインができるかどうかというのは、TPAがオバマ側に来るかどうか、ということなんですね。これが分からない。権限は2007年の7月1日にすでに失効しています。その最後の日にあたる6月30日に通過したのが、米韓FTAです。その直後から大統領府は通商交渉を結ぶ権限がない。ですから、オバマ政権としては、今必死になって議会工作をして、上院100人のうちの60票を得ておかないと、秋になって空約束をしていたことがバレてしまうんです。オバマ大統領が議会工作を成功させるためには、「日本との事前協議や並行協議において、前向きな成果を得たのでよろしくお願いします」と頼むしかないのではないかな、と感じております。


 私たちはTPPの裏話がよくわかっていない。なにが行われているかというのは、議会待ちであるということです。6項目を遵守するということで交渉に行った安倍首相が、これこれの聖域を確保したという念書をワシントンDCで書いて戻ってきました。日本側の首相は交渉権限がありますから、念書は有効です。しかし合衆国側の大統領は権限がありませんから、念書は法律上、無効なんですよ。

-----------------------------------------------------------


TPPを読み解く参考書籍
ヘルプマン 第8巻
http://www.amazon.co.jp/dp/4063521877