グラクソ・スミスクライン(株)
コーポレートチャンネルマーケティング
奥村 由香氏
WHOは4月27日、メキシコやアメリカ、カナダでの豚インフルエンザ感染拡大を受け、パンデミックの警戒態勢を「フェーズ4」まで引き上げると発表した。これを受け厚生労働省も「新型インフルエンザ等感染症」が発生したと宣言。遠くない将来、必ず起きるであろうといわれた新型インフルエンザの発生が現実のものとなった。
国の試算によれば最悪の想定(スペインインフルエンザ:致死率2.0%。Fluaid2.0での試算)で入院患者445万人、死亡者140万人まで拡大する可能性が懸念される“災厄”のなかで、企業はどのような対策をとるべきか? 今回は緊急特集として「新型インフルエンザ対策セミナー:企業におけるパンデミック対策〜共に危機を乗り越えるために〜」(主催グラクソ・スミスクライン)を紹介する。
テーマは、「グラクソ・スミスクラインの対策〜社員の健康対策と事業継続の観点から〜」(コーポレートチャンネルマーケティング・奥村由香氏 4月18日取材)。
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グラクソ・スミスクライン(GSK)が、なぜ、新型インフルエンザのパンデミック対策を行なうのか? その理由は、新型インフルエンザから社員を守り、事業を継続することで、生命に関わる医薬品の安定供給を行なう——という社会的責任にあります。大地震やテロなどと同じような「会社に起こりうる危機」の一つですが、パンデミック対策では、事業継続に加えて社員の健康対策も同時に行なわなければならない点が大きなポイント——例えばITシステムがクラッシュした場合であれば、事業継続だけを考えれば良く、社員の健康は関係ありません——といえるでしょう。
パンデミックが起きた場合には、大げさではなく「社員の1/3〜半数が2〜4週間休む」ようなことが起こりうる。このような状況下で何一つ手を打たなければ、ほとんどの会社では事業継続すら危ういといえよう。こうした危機に対して、インフルエンザ治療薬・リレンザを手掛け世間からは“インフルエンザのスペシャリスト”と目されるGSKのパンデミック対策とは、一体どのようなものなのだろうか?
新型インフルエンザのパンデミックには特有の課題があります。一つは「全世界でほぼ同時期に機能マヒに陥る」ことであり、いまひとつは「利用不能となるリソースが人員のみ」であるということです。世界規模で起きるため代替生産、供給先確保が難しい一方、大地震やテロと違い、社屋や生産設備に問題は起きないものと考えられます。そこで私たちはパンデミックBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を作成する際の原則として、
①最大50%の欠勤者を想定(最悪のシナリオベース)
②クリティカル業務・災害対策本部の代替要員を最低2名確保
③実際に使いやすくシンプルな計画にする
④継続的改善を行なう
——という4つを置きました。
このうちクリティカル業務とは、『製造、出荷判定』『出荷、配送』といった必須業務のことで、これについてはパンデミックが深刻な段階へと移行した後も継続する(工場などに社員が出勤する)としている。また、製造品目を絞込むことで少ない人員でも生産、配送が可能な体制を継続する方針で、既に必須製品のリストアップも済ませているという。
問題は、いつ計画を発動するか? ということですが、これは非常に難しいテーマです。
WHOパンデミック・フェーズで3〜4に移行する段階で決断を迫られるものと考えられますが、パンデミックがフェーズ通りに進むとはいえませんし、パンデミックが起きないなかで発動してしまうと大きな機会損失を蒙ることにもなります。そこで発動の決定者は社長とし、社長が不在時にはリスクマネジメント・コンプライアンス・オフィサー(RMCO)、RMCO不在時には人財本部長と定めました。
なお、社員休業中の給与については「前月水準で払い続ける。月ごとに支払額が異なる社員に対する給与の差額は、後日調整する」という方針で対処するとのことだ。
パンデミックBCPの作成にあたっては、マネジメント部門だけでなく現業部門のメンバーが参加することも肝要であると考えています。リスク管理を専門に手掛けているメンバーが、必ずしも工場や営業の業務に精通しているとは限りません。とりわけクリティカル業務に関わる対策については、所轄本部長が作成メンバーを選任し、彼らが具体的な対策を立案しています。
今後の課題としては、社員への周知、そして業務委託先との連携があります。パンデミックBCPについてはWebに掲載し、全社員が閲覧できるようにしていますが、現時点では社員に対する教育、研修は徹底されていません。クリティカル業務については、業務継続のトレーニングとともに業務委託先(クリティカル・ベンダー)との業務継続体制を確認する必要があるでしょう。全社員と家族のために準備している抗インフルエンザ薬をどのように処方・配布するかの具体的な段取りについても、今後の課題のひとつです。
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GSKのパンデミックBCPを見る限り、新型インフルエンザのパンデミックに対して企業がとるべき対策の要点は、
・社員の大半が出社できなくなることを想定して、絶対に継続すべき業務を取捨選択する。
・対策立案には現業部門のスタッフが積極的に参加する。
・最終的な決断は必ずトップが行なう。
の3点といえそうだ。
繰り返しになるが、新型インフルエンザが日本に上陸した場合、上陸後、1〜2週間で日本を縦断すると見られている。このため今から対策を考えても遅いのではないか? と思われる向きもあろう。しかし、何もしないまま「社員の半数が1カ月休む」ような状態で手をこまねいていては、事業継続すら難しいといわざるを得ない。今日まで何一つ対策を考えていなかった企業においては、まずは「この人が休んだら誰が代わりを務めるか?」といったことから手をつけ始めてはいかがだろうか?(有)