9月14日、15日の2日間、札幌市で開催された日本在宅医療連合学会の第1回地域フォーラムを取材した。『在宅医療!ゴチャまぜ!DO(どう)!だべ!サ!』をテーマに、実践と相互交流を重視するとの趣旨だったので、筆者も参加型のプログラムにチャレンジしてみた。
■初めての「もしバナ」開始!
抄録で目にとまったのが、『もしバナゲームでお茶でもDO!だべ!さ!』。会場におずおずと顔を出して、4人1組のテーブルに「まぜて」もらった。全員女性で、Aさんはベッドサイドで働く看護師、Bさんは病院の地域連携室で相談を担当する看護師、Cさんは役場勤務の保健師、そして筆者。Bさん以外は、初めての「もしバナ」だ。
講師の蔵本浩一氏(亀田総合病院 疼痛・緩和ケア科医長/地域医療連携室室長、一般社団法人iACP共同代表)からルール説明を受け、早速ゲームを始めた。
【グラウンドルール】①参加は自由、②言いたくないことは言わない、③他者への配慮
【もしバナの前提】「治療困難な病気」で「生命の危機」が迫っており「あと半年から1年の命」と言われたら、あなたは何を大切にしたいですか?
【使うカード】終末期に大切にしたいことが書かれた36枚のカード。記述はすべて異なる。自由に希望を述べられる「ワイルドカード」が1枚あるが、今回は使わない。
【ゲームのしかた】プレイヤーに各5枚の手持ちカードを配り、残り15枚を伏せて5枚ずつ開き、場のカードとする。プレイヤーは内容を見比べながら、手持ちと場のカードを交換する。1回の「ターン」で1周目はパスなし。2周目以降はパスOKで、全員がパスしたら、場のカードを流す。「ターン」3回で場のカードがなくなり次第終了。
【振り返り】自分の手元に残った5枚のカードから特に大事な3枚を選び、その理由を他のプレイヤーに説明。さらに、ゲームを行ってみて感じたことや、気づいたことを話し合う。
■価値観は人それぞれ、自分にも揺らぎ
Aさんは、「家族や友人とやり残したことを片付ける」「清潔さが維持される」を最優先にした。Aさんは、ひとりでは日常生活やお金などの管理が難しいお母さんと二人暮らし。だから、遺されたお母さんが困らないようにしておくことが第一。その一方で、自分もぜひやっておきたいことがある。大好きな旅行と、白髪の多い頭をきれいに染めておくこと。
Bさんは、「ほんの半年前にやったときと、手元に残したカードが違うので自分でも驚いた」という。柔らかい印象のおしゃれな女性で、ゲーム中は車椅子に座っていることさえ忘れていたが、後になって大変な経験をしながら頑張ってきたかたであることを知った。入職後8年ほどして脊髄腫瘍を発症したものの、その2年後に復帰して以後20年近く看護相談室で働き、3年前からは退院支援専従とのこと。
Cさんの選んだ3枚には、筆者も欲しかった「ユーモアを持ち続ける」が含まれていた。聞けば、がんで亡くなったお母さんが、最期までそういう姿勢のかたで「看護する自分も救われた」という。
筆者が残した3枚のうち、「いい人生だったと思える」は理想のカードではないかと思った。ベスト3に選ばなかった「私を一人の人間として理解してくれる医師がいる」も、治療可能な段階であれば捨てがたいカードだ。
筆者は今年、老親の特別養護老人ホーム(特養)入所にあたって「急変時と終末期においての意向確認」の書式を受け取り、「急変時または生活レベル低下(老衰)時の延命治療」と「終末期(老衰で治療やケアによる改善が見込まれない状況)の対応」について、その時点での意向を記載するよう求められた。延命措置を望まないのは家族で一致した意見だったが、自由記載での表現は難しく、悩んだ末に「心身への大きな負担を伴う延命措置は希望しないが、最終段階で苦痛を伴う症状がある場合、延命を目的としない対症療法やケアは受ける」といった書き方で提出したことを思い出し、話題にした。
Aさん、Bさん、Cさんは、事前に「DNR(do not resuscitate、蘇生処置拒否)」の意思を確認しても、「患者さんが持ち直すと気持ちが変わる家族は多いよね」と「あるある話」をしてくれた。またCさんは、「医療関係者の中にも、こうした話を正面切ってすることを好まない人がいるので、研修にも使えそう」との感想をもらした。
場を和ませる飴。「もしバナ」はバナナ味
「自分が大切にすること」が手元に残る
■大上段の「人生会議」以前に
この「もしバナゲーム」と振り返りにかけた時間は約30分。ディスカッションしてグループごとの意見を発表する形式のワークショップに比べると気軽に行える。4人単位なので、「自分が大切にすること」の背景についても突っ込んだ意見交換でき、楽しかった。
かつては「縁起でもない話」がタブー視されていたが、2018年11月に厚生労働省がアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の「愛称」を「人生会議」とするなど、医療現場で「ACPへの流れが来ている」中で、抵抗感は薄れてきた。しかし、終末期の選択について自分自身で考えて言葉にするのは難しい。そこで「カードのような選択肢があると終末期の選択について整理し、対話しやすいのではないか」と蔵本氏は語った。
カードは米国で開発された「Go Wish Game」の日本語翻訳版であるためか、「神と共にいると感じる」など宗教的なフレーズのカードがあり、選んだプレイヤーは少なかった。しかし、「あらゆる選択肢を用意するのは難しく、あくまで対話のきっかけ」なので原版どおりのカードで大きな問題はない、また、主な対象は一般市民や医療関係者等であり、患者さんで行ったことはないという。
蔵本氏らは2013年に医療者や地域住民と「ACPを考える」活動を始めた。iACP(Institute of Advance Care Planning)は『あたり前に もしバナのある世界』を謳っている。ACPへの助走として、今後さらに普及が進む予感がする。
「もしバナゲーム」の活用について語る蔵本浩一氏
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。