死んだふり戦術?


 その一方で、国・自治体の厳しい財政事情を考えれば、社会保障分野について国民に負担増を求めることは不可避である。消費税の引き上げで最終的に国の税収は約10兆円増えるものの、公債発行額が13年度予算で約42兆円に及ぶ赤字体質は変わらず、政策的経費の41%を占める社会保障費の抑制は避けられない。


 実際、骨太2013は「社会保障支出も聖域とせず、見直しに取り組む」、財政審報告書は「(重点化・効率化を通じて)社会保障費の抑制に着実につなげていくことが欠かせない。国民は負担以上のサービスを享受しつつ、大きな負担を将来世代に先送りし続けている現実を直視し、必要な負担増や給付抑制を受け容れる覚悟を持たねばならない」と強調した。




 しかし、骨太方針2013は具体論に踏み込んでおらず、これまで財政健全化の観点から自己負担増や給付抑制などを指摘してきた財政審報告書も不気味な静けさを保っている。


 さらに、与党の参院選マニフェストも負担増を伴う話題から避けている。自民党は「社会保障制度改革国民会議の審議結果を踏まえて見直しを行います」と、有識者に丸投げ状態。公明党も地域包括ケアシステム(=日常生活圏で在宅を中心に医療・介護サービスを提供するシステム)の構築や高額療養費制度の充実などを列挙するにとどまっている。


 一方で、政治日程を考えると、7月21日投開票の参院選が終わると、次の参院選は16年夏、衆院選の任期満了は16年12月。その間に解散総選挙が実施されない前提に立てば、今後3年間は本格的な国政選挙が実施されず、参院選で自民、公明両党が過半数を制することができれば、長期政権になる可能性がある。同時に、財務省にとっても国民に負担増を強いる「千載一遇」のチャンスが訪れる。政府・与党ともに参院選までは社会保障制度改革国民会議を隠れ蓑にして、「死んだふり」戦術を採っていると言える。


想定される負担増のメニュー


 では、医療・介護で負担増を求める手段として、どんなことが考えられるのか。


 最初に浮上するのが70〜74歳高齢者の医療費負担を軽減している特例だ。後期高齢者医療制度を導入した際の混乱を解消する方策として、当時の福田康夫内閣は07年度補正予算で、70〜74歳の高齢者が窓口で支払う自己負担を2割から1割に軽減する措置を導入。その後も特例は2度の政権交代、5度の内閣交代を経ても続けられており、毎年2500億〜3000億円規模の血税が補正予算で投入されている。


 13年度に関しても、安倍晋三政権発足直後の今年1月に閣議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」で存続が決まり、12年度補正予算に必要経費が計上された。


 現時点も表立った見直し論議は出ておらず、骨太方針2013は「高齢者医療の自己負担の見直しについて検討し、早期に結論を得る」という表記にとどまっており、自民、公明両党の参院選マニフェストでも全く触れていない。しかし、経済財政諮問会議の民間議員ペーパーは短期的に取り組む課題の一つとして、「高齢者医療の自己負担等」などを挙げており、14年度予算編成で改めて浮上する公算は大きい。


 これ以外の方策に関しても、骨太方針2013、財政審報告書が割いている紙幅は僅かだが、今の財政状況と増大する社会保障費を考えれば、誰が政権を担ったとしても、負担増は避けられない。09年の総選挙で「無駄の排除による財源捻出」「消費増税なき財政再建」を訴えた民主党政権が方向転換を強いられたことが何よりも物語っている。朝三暮四の故事で言えば、エサの「木の実」が大幅に増えることは考えにくい。


 実際に実行されるかどうか別にしても、過去の骨太方針、財政審報告書を読むと、以下のような国民の負担増を伴う見直し策が参院選後に蒸し返される可能性がある。目先の「木の実」に一喜一憂しないスタンスが必要となる。



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丘山 源(おかやま げん)

早稲田大学卒業後、大手メディアで政策プロセスや地方行政の実態を約15年間取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。