同質性の高い社会を作り上げている我が国では、何かと「格差」が問題にされやすい。所得、資産、賃金など個々人の懐事情を比べる格差だけでなく、税収や行政サービスに関する地域格差も取り沙汰されがちである。


 政治の世界でも「国土の均衡ある発展」「再チャレンジ」「最少不幸社会」など格差を極小化させようとするキャッチフレーズが何度か登場し、個人・地域間の格差を少しでも減らす政策として、所得税に関する累進課税や生活保護、地域間の税収偏在を是正する地方交付税や国庫補助金などの仕組みが整備されている。中でも、命や暮らしを守る医療・介護分野では、負担やサービスに関する格差が少ない方が良いのは言うまでもない。


 しかし、全ての格差は「悪」なのだろうか。負担と受益の関係が明確な社会保険の分野では、保険料格差を顕在化させた方が給付適正化に繋げられる側面がある。同時に、医療・介護サービスは地域ごとにニーズが異なり、サービス供給体制に差異が出るのは止むを得ない。


 全ての格差を「悪」と考えるのではなく、むしろ格差に着目することで、地域特性に応じたサービス選択や給付適正化に繋がる可能性がないか考えたい。


 複雑怪奇に入り組む国保への財政支援


 政府の社会保障制度改革国民会議が今月取りまとめた報告書で、市区町村の運営する国民健康保険の都道府県単位化を打ち出した。国保の運営を都道府県に移行することで、財政難の状態を緩和することが目的である。


 では、国保財政はどの程度厳しいのだろうか。国保は本来、自営業者などを想定した仕組みだが、近年は企業を退職した高齢者が国保に流れて来ている上、若年者を中心に非正規雇用者や無職者も増えており


(1)年齢構成が高い
(2)医療費水準が高い
(3)所得水準が低い
(4)保険料負担が重い
(5)保険料の徴取率が下がっている
(6)小規模な団体が多く、財政運営リスクが不安定になる


などの構造問題を抱える。


 実際、厚生労働省によると、2011年度は約3000億円の赤字。厳しい財政状況は保険料格差に跳ね返っており、表1の通りに大企業の従業員が加入する健康保険組合(健保)、中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険(協会けんぽ)との負担格差は大きい。さらに、地域間の保険料格差も大きく、1人当たり保険料(2010年度)は最低の沖縄県栗国村が3万1242円だったのに対し、北海道猿払村は14万1650円と5倍近い。






  国保の厳しい財政事情を反映し、図1の通りに国保財政に対しては様々な支援措置が講じられている。具体的には、国が給付費の32%を助成するだけでなく、保険料でカバーする部分に対しても「高額医療費共同事業」「保険者支援制度」などの名目で、国、都道府県、市町村の税金が複雑に投入されている。社会保障制度改革国民会議が都道府県単位化を提唱した背景には、今までの財政支援では対応し切れないとの問題意識があるのだろう。


 厳しい財政状況は協会けんぽも同様だ。高齢者医療への資金拠出などに伴い、積立金は2015年度までに枯渇する可能性が指摘されており、図2の通りに健保との保険料格差も拡大の一途をたどっている。さらに、2006年の医療制度改革に際して、全国一律の保険料設定ではなく都道府県単位に変更された結果、地域ごとの医療費や所得水準、高齢化の状況が保険料水準に跳ね返るようになっており、図3のような形で格差が生じている。


 こうした保険料格差は医療費だけでなく、各地域の高齢化状況や所得水準、徴収率などが影響するため、全ての責任を医療費の水準だけに求めることはできない。さらに、小規模な団体が運営する国保については、リスクをシェアする母集団が小さくなる分、少人数の加入者(=住民)が重症化しただけで医療費が跳ね上がる危険性を伴う。


 所得の低迷や人口の老齢化、失業者や非正規者の増加など社会の矛盾が国保や協会けんぽの財政構造に現われていることを考えれば、全ての課題を制度改正で解決できるとは限らない


 しかし、「負担と受益の関係の明確化による給付適正化の努力」は本来、連帯と共助を基軸に据えた社会保険という仕組みに期待される効果であり、給付適正化や予防医療、予防介護、患者教育などを通じて、保険料水準の高い保険者が給付費を減らすインセンティブ設計を内在させているはずである。


 むしろ、無定見な税金投入は負担と受益の関係を不明確にして、社会保険の機能を失わせることになりかねない。保険料の格差を「悪」と考えて必ず解消すべき存在と決め付けるのではなく、各保険者が特性に応じた給付適正化策を模索する際の材料と捉えることも可能である。この文脈で見れば、疾病構造の把握や患者教育、予防医療、徴収の強化、レセプト(診療報酬明細書)点検など、保険者として取り組むべき課題は多い。


医療費格差と病床数


 サービス供給面でも同様のことが指摘できる。図4は人口10万人当たり病床数(一般、医療療養、精神、結核、感染症の合計)、図5は人口10万人当たり介護3施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養病床)であり、都道府県別で前者は3倍、後者は2.5倍の差が見られる。


 一方で、高齢化のピーク時期が地域ごとに異なる点も見逃せない。例えば、2010年の国勢調査によると、36道府県で人口減少が見られた一方、首都圏の自治体では2025年から爆発的に進む高齢化への対応が求められる。地域資源や課題が大きく異なる状況で、医療・介護サービスの負担や水準について、地域ごとに格差が出るのは当たり前である。


 もちろん、「国保の構造問題や医師・介護施設の不足、救急医療体制の崩壊といった課題を無視していい」というつもりは毛頭ない。しかし、全ての格差を「悪」と考えて国に対策を求めたとしても限界がある。むしろ、地方自治体や地域住民が負担と受益の関係を意識しつつ、地域特性に応じた課題解決を模索するべきであり、現在のように国が一律に政策を決定するのではなく、決定権限を自治体や現場に分散化していくことが必要なのではないか。 



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丘山 源(おかやま げん)

早稲田大学卒業後、大手メディアで政策プロセスや地方行政の実態を約15年間取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている。